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海に浮かべる建築|浮上港とハウスボート

30代の前半、若い時代の作品である。ハウスボートはいつものようにクライアントのいない自発的プロジェクト、もう一つの浮上港は太陽工業が主催するキャンバスによることを条件としたコンペティションでグランプリを頂いた作品である。もう半世紀以上前の作品だから、僕の青春の血流が透けて見える。

HOUSE BOAT

ハウスボートは三つのキャビンがフロートとなり、その上にウッドデッキを乗せた構想で、中心部にフロートをも兼ねるシャフトが立っている。土地の狭い日本だからもっと海を利用するべきだと構想したプロジェクトなのだが、デッキで釣りをし日向ぼっこする海ならではの構想でもある。実は釣りに使う浮きは波が来ても上下移動が少ない。この原理を使って海洋調査船が生まれてもいるのだが、ここでは五重塔の心柱のように三つのキャビンが横揺れしないように支える役割をしている。
図面を描かないで模型を作っている。このキャビンは銀座の百貨店で見つけたジバンシーの石鹸の箱でできている。ヘリュームで空に浮かぶ建築を構想したり、僕の青春は夢ばかり追っていた。

FLOATING HARBOR 浮上港

もう一つのプロジェクト浮上港は、船舶の台風からの避難用に設計した。キャンバスごと移動させ、必要なところで傘を広げて浮上させた港の設計である。少年時代、風呂でタオルの中にオナラを貯めて楽しんでいたあのアイディアである。ポンプで空気を入れて膨らませ、釣りの浮きの原理(波の影響を受けない)を利用したセンターポールからトーラス状の空気袋にもう一つのキャンバスを掛けた構造である。

ハウスボートの構想ではあの太平洋を一人で渡ったマーメード号の設計者に会うチャンスがあり、自慢げに話したこの構想を一笑にふされた思い出がある。彼はこんな説明をしてくれた。「木の葉が大波にも破れないのと同じで、小さなヨットが波に翻弄されているからなんだよ」。自然の人間を超えた威力は抵抗したらすぐ破壊される。翻弄されなくてはダメだという。すごい話である。

東北が津波にやられた時、人々は巨大な堤防を計画していた。もう完成しているのだがこれも大自然にはひとたまりもないだろう。人の命だけはちゃんと救って、建築や街は流されてもいい、そんな計画を僕は考えていた。政府の計画には僕の声は届かなかったが、今でもあの巨大な堤防は「人間の無知」の記念碑であり、「自然に対する畏怖の感覚」を思い出すための教訓と思っている。

もう一枚、掲載した段ボールの家はその頃、これも自作したものである。ちなみに、この3枚の写真は当時、建築界では先鋭的な「都市住宅」という雑誌のために、今は亡き石岡瑛子さんによるグラフィック構成である。僕の出発点ともいうべき作品群である。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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