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物学研究会|物学の構築とその研究会

「物学」という概念は僕のオフィスが目白にある頃だから半世紀前のこと、東大の学生運動の連中が訪れてきてその会話から生まれたものである。僕がなんとなく探していた概念だった。その頃から僕は「物」という概念で世界を構築しようとしていた。理論も実際にも・・・。建築という領域が次第に溶け出している実感があり、プロダクトから都市まで建築を中心にトータルな概念で表現し理論化することを目指していた。そんな時に確か、結城君という学生の口からこの言葉が漏れてきたのを拾った気がしている。妄想だったのか?

その後、ソニーのデザインセンターのリーダーだった渡辺英夫さんと出会い、企業に閉じこもりがちなインダストリアルデザイナーの共通の場をつくろうと組織を作り、それを物学研究会と名づけた。25年かな?もう長く続いている。渡辺さんは病死し、何人かの人たちの助けを借りながら今日まで続いている。今、ディレクターで事務局長を息子の黒川彰が担当している。

渡辺さんはいつも僕に言っていた。黒川さんはシンボルだから高い思想を語り続けていてくれ、僕が企業のビジネスやデザインのことを語るから、そう言い続けていた。渡辺さんはいないけれど、今でもそれを続けている。企業内のデザイナーはどうしても企業の中にいるから市民の立場で話していても企業利益に戻っていかざるを得ない。そこを僕達がデザインや美の高みに引っ張っていこう、そう考えていたのである。

今、こう宣言している。「デザインを産業の文脈から文化の文脈へ」、物学研究会ははっきりその姿勢を表明している。世界のデザイン自体、産業の活性化には文化的視点と立ち位置が重要なことが分かってきている。それを知った上で、文化に焦点を当てようとしていると言っていい。

物学とは物による世界・環境の理論を言っている。僕は30歳の頃、スタジオを立ち上げて宣言していたのは都市計画から建築、プロダクトを全て仕事の対象にするということだった。10名以内に限定してどこまで一人の人間の中で崩壊しつつあった建築の概念を物の概念で再構築するか、それが大きなテーマだった。

まさにその通りに、今日まできている。都市から建築やプロダクトまで、という範囲はもっと拡大して、企業(会社)のデザインから流通組織のデザインまで、そして理論そのものの構築までを仕事の対象にしている。幅広いということはどの分野でもよそ者である。在野を好む僕らしい人生だったと思っている。

物学研究会は新しい局面を迎えている。産業を脱ぎ捨てて文化を、と言いながら、その文化さえ脱ぎ捨てて人や世界の本質を探そうとしてさえいる。
コロナがその脱皮を助けてくれた。危機が最大の助っ人だったのである。物学研究会のこれからの半世紀は息子が発展させるだろう。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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