桜色の花火
桜色の花火を作りたい。
三四郎は、ずっと研究を続けていた。
彼女の大好きな桜で、この夜空をいっぱいにしたい。
しかし、うすい色の花火を作るのは、なかなか困難だった。
来る日も来る日も研究に明け暮れて、デートをするどころか、
電話やラインさえめったにしない三四郎に、何も知らない彼女は不満を感じ始めた。
私より花火の方が大事なのよね
ある日彼女は、三四郎に別れを切り出した。
三四郎は言った。
君の為の花火を作りたかったんだ。
この花火が完成したら僕は・・・
彼女は三四郎の言葉を遮って言った。
たった数秒間のために、日々寂しい思いをするよりも、
毎日一緒にいられるほうがいいわ。
さようなら
彼女は三四郎の静止も聞かず、去っていった。
三四郎は、その後も桜色の花火を作るために研究を続けた。
まだうすいピンク色を作り出すことはできなかった。
しかしまばゆい白金と濃いピンクの光の両方が混ざり合えば、
ピンクっぽくなる。
そう思った三四郎は、それを小さい桜の花のかたちにして、たくさん咲かせようと再び研究を重ねた。
2年後の春祭り。
この年は桜が遅く、桜はまだちらほらしか咲いていなかったが、祭りを締めくくる夜の花火で、夜空にたくさんの桜が咲いた。
彼女は、その花火が三四郎の作った花火であると気が付かずに、美しい夜空の桜を見上げていた。
私の大好きな桜だわ。なんて美しいんでしょう!
彼女の横には、おしゃれで若干かるそうな男が立っていた。
男は花火を見ながらも、頭の中ではその後の事ばかり考えていた。
彼女は、ふと三四郎を思い出した。
誠実で優しい人だった。
なんで、待てなかったのかな・・・
その夜、少し離れたところで、三四郎も自分の花火を見上げていた。
ようやく夜空に桜を咲かすことができた。
彼女は見ているだろうか。
三四郎の隣で、同じように三四郎の花火を嬉しそうに見上げている女性がいた。
三四郎に彼女がいるころから、三四郎の研究を応援し、夜食を届けたり、
手伝いをしてくれた事務所の女の子だった。
彼女は、その花火の意味も知らずに、三四郎の花火の完成を、三四郎以上に喜んでいた。
三四郎は、
これで一つの恋が終わった。
次は、この子が大好きなヒマワリの花火を作ろう。
と、横で花火を見つめる彼女の横顔を見つめた。
三四郎の視線に気が付いた彼女が三四郎を見た。
二人はにっこり微笑んで手をつなぎ、再び夜空を見上げた。
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