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池江璃花子選手という“希望”について -カムバックしたことよりも-

池江選手が患った白血病と、次女が患っている血球貪食症候群(および再生不良性貧血)。病気としてはまったく違うものではあるが、血球減少を伴う血液疾患という面では共通しており、少なくとも次女の担当医は白血病の担当医でもあるように、担当エリアとしても共通しているらしい。抗がん剤治療や造血幹細胞移植など、治療の共通点も多い。
 
そういった意味で、やはり池江選手の存在は非常に大きいと感じる。
 
何が大きいのか?
白血病からカムバックして今もトップアスリートとして活動していること?
 
もちろん、それも素晴らしい。
しかしそれよりも希望をもらえるのは、退院してすぐにパリ五輪の出場とメダル獲得を目指すと“あっさり”表明していること。今も彼女の公式ホームページにメッセージが残っているが、入院中の気持ちや周りへの感謝の気持ちなどを表明された後、まるでただアスリートとして長期離脱しただけだったかのように、当然のことのように5年後の目標を表明している。
 
それを意図したメッセージだったのかは分からないし、こちらが計りしれないほどの悩みと葛藤があったとは思う。が、それらをひっくるめても私には「そうか、別に目標を諦める必要なんかないもんな」という、ごく当たり前の気づきを与えてくれる。 


現状、次女の人生の目標ではない

池江選手のカムバックは本当に言葉では表せないほどに素晴らしいことだが、一方で次女の人生と照らし合わせることは難しい。次女は水泳はおろか学校の体育以外にスポーツすらやっていないし、何かひとつごとに取り組んでいるわけでもない。当然「池江選手のようにオリンピックを目指して」みたいな話は今のところない。
 
それに次女は闘病中で、抗がん剤治療はいったん終了したものの、相変わらずステロイド投与や輸血などは続いており、現在は造血幹細胞移植も現実的な選択肢となっている。
 
病と向き合っている人に、戦っていない人はいない。

当然次女も、私がこれまでの人生で経験したことのない厳しい戦いをしている最中である。そういった意味では、次女は既に池江選手と同水準の努力をしていると思っている。

人生の優先順位について

現時点で、私たち家族にとって最大の関心は、次女が快復してくれるかどうかである。ここでいう快復とは、血球の増加、血球をつくる機能の改善、貪食行動を自立的に抑えられること、退院できることである。
 
それができたとして次の関心事は、どのような状態で退院してくるか。小児慢性特定疾病にリストアップされる病気である以上、何かしらの形で病気と付き合っていくことになる可能性は高いと感じている。そこにどのような制限がかかるのか。家族としてどのように向き合っていくのか。
 
当然、できることとできないことがあるだろうし、できないことが増える可能性は高いだろう。親心として、リスクを冒してほしくないという気持ちも働く。
 
どうしても、「今後難しいこと」「諦めなければいけないこと」を考えてしまう。 

「なりたい自分になることを目指してもいい」という希望

しかし池江選手のメッセージは、この思考回路に一石を投じている。
 
彼女の掲げた目標が、案外現実的なものだったのか、それとも奇跡を手繰り寄せるような挑戦だったのか。医学的見地としてどうだったのかは分からない。
 
ただ、白血病、しかも造血幹細胞移植を行うタイプのものを患い、10カ月の入院期間を経て退院となると、まずは現役復帰を目指せるのか、というところから判断をしてもおかしくないのではないかと思う。
 
だが、池江選手のメッセージでは進退についてまったく言及していない。まだトレーニングを再開していない状態なのに、こともなげにパリ五輪を目指すと表明している(ように見える)。
 
このメッセージからは、彼女自身が“なりたい自分”(彼女は既にリオ五輪に出場していたから“ありたい自分”かもしれないが)を目指すことにまったく躊躇していないように見受けられる。彼女にとって白血病は、そのなりたい自分を目指すことを諦める理由にはなっていないようである。五輪出場+メダル獲得なんて、ただでさえこちらが想像すらできないような険しい道であるにもかかわらず。
 
これが、私たちにとってはこの上なく心強い。
 
病気になったことで、できなくなることは必ずある。
だからといって、最初から「目指してはいけない」とは限らない。
目指してはいけないことなんか無いのだと。
 
「なりたい自分を目指していい」という誰もが当たり前に持つ権利を、やはり次女も持っていいんだという確信。これが、池江選手が与えてくれる特大の希望と生きがい。
 
「なぜそこまでしてオリンピックにこだわるのか」と思ったかつての自分は、なんて浅はかだったか… 


1週間後の3月17日から、競泳のパリ五輪代表選考会が開幕する。

池江選手も当然それに向けてトレーニングを積んでいて、現在は長岡市で合宿をしているようだ。

どうか、彼女にとって満足の行く泳ぎができますように。

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