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中西伊之助(プロレタリア作家・社会運動家) 中西伊之助研究会

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【中西伊之助研究会のマガジン】  中西伊之助(1887年2月8日〜1958年9月1日)は、プロレタリア作家、社会運動家として、様々な被抑圧者の解放のために力を尽くしました。 … もっと読む
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『戯曲 武左衛門一揆』 中西伊之助・作

『戯曲 武左衛門一揆』 中西伊之助・作

戯曲 武左衛門 中西伊之助作
一九二七年(昭和二年)五月三一日、解放社発行

本書を四国農民運動の先駆者達、熊田武左衛門翁の郷党諸兄にささぐ。
一九二七、メーデイ、東京にて
著者

武左衛門翁に就て 一昨年、愛媛県農民組合連合会、井谷正吉兄等の招きに応じて講演会に出席した時、同君の同郷人である上大野村の熊田武左衛門翁の事をきいた。その時私は武左衛門翁が、木内宗吾、もしくは磔茂左衛門の如き封建時代の

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『公約』 中西伊之助著

『公約』 中西伊之助著

第一章 湯の宿にて

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 大阪から山陰線にはいると、K温泉がある。どこの温泉もあまり変わりがないが、初秋の明るい小春日和なら、幾階もの旅館が、山ふところに抱かれてならび、濃淡のみどりや、もう点々と色づいている落葉樹の中に、朽葉色の高い甍が重なり合つて、あつちこつちの谷間からは炊煙のような白い湯煙が幾すじも立ちのぼつている。静かな山の出で湯の一夜を楽しもうとする人々が、ドライブしてくる夕方

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「母のこころ」 短編小説 中西伊之助著

「母のこころ」 短編小説 中西伊之助著

プロレタリア作家ー中西伊之助の短編小説「母のこころ」を紹介したい。

小作農の作兵衛はとう⌃死んだ。全く、彼は、とう⌃死んだのだ。……
 たれでも、最後は死である。それを疑ふ人は、たれ一人もない。だが、作兵衛ほど、安楽に死んだ人はないだらう。彼はありふれた言葉で表現するならば、『眠るが如く死んだ』
 が、彼がその眠るが如く、なんの苦悶もなく死んで行つたのには、かうだ。彼は七十一にもなつて、まだせつ

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