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結果、たてがみボウズ

失敗した。
だから今日は、鏡を見ないことにした。
明日と明後日も。
お盆休みに在宅勤務がくっついてて、救われた。
ステイホームな夏に、心から感謝したい。誰にも会わずに済む。

失敗の結果は、タイトル通りだ。
この長い文章の果て、最終的に私は、たてがみボウズになる。

 

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10年前から基本ベリーショートなので、きっかり2週間おきに髪を切りたくなる。
でも、美容院って、カットだけで樋口一葉たけくらべ、カラー入れると諭吉さん。
2週間おきに、たけくらべ。
これ、結構な出費。
しかも、思ったように切ってくれるとは限らないし、2週間おきに切ったところで周囲からは気付かれないときたもんだ。
結構な出費なのに、ただの自己満足。
こんなの、もったいない。

2週間おきではもったいないから、あと2週間ガマンする。
これはこれで、結構なストレス。
伸びた襟足を撫で上げたとき、指の間から毛先が飛び出したら、アウト。
でも、2週間ガマンしてるうちに、やつらは悠々と指の間を越えてくる。
こうなると、もう、そわそわして仕方がない。

背に腹は代えられないので、自分で切ることにした。
これぞ、いつぞやの記事で書くと予告していた、DIY床屋!
5~6年前にヤマダ電機で、息子のためでもペットのためでもなく、自分のために電動バリカンを買い求め、DIYならぬDIM床屋はスタートした。
Do It Myself!

やり方はとっても簡単で、とっても危険で、とっても見苦しい。
カッパ黄桜カッパッパ~がイナバウアーする世界だ。
黄桜のカッパを知らないって? あらまぁ若いのね♪
何のことかわからんって? まぁまぁちょっと待ってよ。
読めばわかるけど、とにかく見苦しい。
だから、決しておすすめはしない。
良い子はマネをしないでください。


百聞は一見に・・・と言うから写真付きで図解したいところだけれど、謹んでご辞退申し上げる。
言葉を尽くして説明するので、どうか想像してほしい。
その悲惨な妄想劇場に目を背けたくなったなら、退散の合図に“スキ”だけ押して、そっと別の誰かのnoteに癒されに行ってほしい。

 

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まずは、床屋の準備を始めよう。
我が家は、たいていの住宅と同じように、バスルームの隣に洗面所がある。
洗面所には、ドラム式洗濯機と洗面台が並んで配置されている。
よくよく読み込んだ新聞のスポーツ面を広げて、洗面台のボウル内に敷き詰める。
このとき、すき間がないように丁寧に曲線に沿わせることが大切だ。
これを怠ると、後の掃除が大変だから、とにかく丁寧に。
そして、洗濯機の上に、バリカンとカットハサミ、セニングハサミ(すきハサミ)、手鏡とダッカールピン(髪を分けて留めるためのクリップ)をセットする。
たいてい、切りたくなってから床屋をするまでは12時間以内。
ときには30分以内というときもあるから、まずバリカンの充電はされていない。
コードで給電しながらカットしよう。
これで、準備は整った。

あ、ひとつ忘れていた。
必ず、家人には「決してドアを開けてはなりません」と伝えなくてはならない。
鶴の恩返しのおつうさんになり切ったところで、準備完了。

え? てるてる坊主みたいなケープはないのかって?
いちおう、持ってはいるけど、使わない。
さぁ、脱ぐのよ。思い切りよく。
身に着けている布切れは、何もかも!
脱いでしまえば、ケープなど必要ないのだ。
脱いだ服を洗濯機に入れ、35分のスピードモードで運転開始!

 

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バリカンのガイドを、まずは15mmにセットする。
ボウズにする気はないからね、15mmくらいでちょうどいい。
長くしておきたい髪はダッカールで留めて、残りを刈り上げるのだ。
まずは、両サイドのもみあげから。
ジャーッ・・・ジャーッ・・・ジャーッ はい。できた。
次は、後ろだ。
そのまま刈ったら、床に髪が落ちてしまう。
だから、洗面台にお尻を向け、イナバウアー。
そう、荒川静香のように優雅に、羽生結弦のようにしなやかに、生まれたまんまの姿で洗面台のうえにエビぞりながら襟足から10cm上くらいまでを刈る。
ほら、トゥーランドットが聴こえてくるでしょう?
ジャーッ・・・ジャーッ・・・ジャーッ ひと通り15mmにカット完了。
そこからは、バリカンのガイドを2mmずつ減らしながら、一番襟足に近いところが7mmになるよう調節しながら、グラデーションをつける。
肩や二の腕に落ちた毛束を払って、バリカンは終了。
ここまで、たいてい5分くらい。

 

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そうしたら、今度はハサミの出番。
使うのは、スーパーで買ったこどもの散髪用ハサミ。
ダッカールを外し、髪を適当に分けてもう一度留めては、ハサミで切っていく。
もともとヘアサロンでも寿司屋でも職人の手の動きを見るのが好きだし、よく「なぜ、そうするのか?」と質問するタイプなので、自分は再現できなくても、イメージ映像だけは完璧。
手鏡で合わせ鏡にして確認しながら、見よう見まねで長さと分量をハサミ2挺で調節して仕上げる。
いやぁ、見よう見まねって、工程の説明省略には便利な言葉だな。

切り終わるまで、12分。
肩や背中に落ちた髪を丁寧に新聞のうえに払い落して、新聞くるくるまとめてポイ。
床に落ちたわずかな髪を掃除して、そこまでで15分。
あとは、シャワーで洗い流すだけ。
全身とバスルームの排水溝まで洗い終わった頃には、洗濯機が終了のメロディーで迎えてくれる。

これを、2~3週間に1回。
たけくらべをひらひら飛ばすことなく、洗濯機を回す間にストレス解消できてしまう。
たまに気分で、カットとは別の日に、サロン専売品の酸性カラーで1割ほどの白髪をほのかなシルバーブルーに染めたり、縮毛矯正をしてみたりもする。サロン用の薬剤がインターネットで手に入るというのは、本当にありがたい。
もう一度言うが、すべて見よう見まねなので、良い子は真似しないでね。
(使用方法を間違えると髪や皮膚を傷める危険があるので、おすすめしない)

 

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このセルフカットで出来上がるのは、グラデーションのついた刈り上げと、ハサミで切った長い部分があるツーブロック。
バリカンを使う以上どうしようもない限界があるので、3~4ヶ月に1度は美容院に行って、キレイに整えてもらうことにしている。
こんな無鉄砲DIY床屋の私でも、笑って上手に直してくれる心強い美容師、中田さんがいるからだ。
中田さんは、ゆるパーマロングで穏やかニコニコの綾野剛って感じの人。
私の性格をよく知っているので、間違っても「前髪、自分でカットしないでね~。バランス崩れちゃうから!」なんて言わない。
上手く切ってあれば褒めてくれるし、失敗してたら「ここで分けると失敗するんですよ」って教えてくれる。
思いっきりガッツリ切ってね!って言えば、細かい好みをインタビューしながら、遠慮せず本当にガッツリ切ってくれるし、オーダーしたスタイルが難しければ、その理由を丁寧に説明してくれるので、かなり信頼している。

でも実は、職場では美容院に行った後よりも、セルフカットの方が評判がいい。
なぜなのか、よくわからないけれど、きっとセルフカットは「切ったのかな・・・?」くらいにしかわからないけれど、美容院に行くと中田さんのセンスと技術で「うたさん、髪型変わった!」ってなるんだろう。
当たり前だよね。
自分でどうしようもなくなったけど切りたくて、中田さんに頼るんだから。

 

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ところで、だ。
これを書いている今も、鏡を見ないようにしている。
失敗したからだ。
基本、DIY床屋で落ち込むことはない。
ワタシ、失敗しないので。

じゃあ、失敗って、何を?

中田さんへの発注を・・・だ。

「水野さーん、今日はどうします?」 にこにこ。
「えーっと・・・(何だっけ? ど忘れした!)・・・前髪長めで」
「わかりましたー。前髪長めにして、いつもみたいに刈り上げていいですか?」 にこにこ。
「(前回はちょい長めの刈り上げだったよな・・・) はい。大丈夫です」
「じゃあ、前髪長めで、サイドと後ろはスッキリさせますねー」

実は、3ヶ月前と同じ感じで切ってもらおうと思っていた。
襟足ともみあげは、ほどよく短く、すっきりと9mm程度の刈り上げに。
後頭部は丸く、前髪は重めにして、眉が隠れるくらいのマッシュ風のシルエットに。
最近の気分はあのスタイルだったから、とても気に入っていて、自分で切るときも、そのような雰囲気に仕上げていた。

でも、彼の持つバリカンが後ろから右耳のあたりに差しかかった瞬間、私は目をまるくした。
ん・・・? いくらスッキリでも、大会前の球児並みに短くない?
ブーン・・・ジョリジョリジョリ・・・
「中田さーん、それ、何mmですか?」
「最近暑いし、すぐ伸びるから、今日は3mmでーす」
Oh, My God!
3mmかぁ。
それ、3mmなのね。後ろもサイドも。
たしかに、昨年の夏、それくらいで刈り上げたこと、あった!
でも、その時は、全体にめっちゃ短かったはず。(野球部母たちに、息子より短いわ~!って、ジョリジョリされた)
この時点で、左のユーラシア大陸は普通のショート、北アメリカだけ見ればボウズ。
きっと、見えない後ろも、南半球は間違いなくボウズ。
南半球いがぐり頭なのだけは、この時点で確定していた。

中田さんってば、どう、バランスとるつもりだろう?
前髪重めにしてバランス・・・
え、あ、私、「前髪長め」って言ったし!
しかも、ど忘れして「マッシュがいい」って言ってない!
いやだ、ちょっと! 私じゃん! 汗出てきた!
中田さんは悪くない。注文どおりにしただけだ。
嗚呼、痛恨の発注ミス!
頭の中で、仏壇のおりんが鳴り響く。チーン・・・
オワタ。

ポーカーフェイスの私の忙しい心の嘆きが聞こえるわけもなく、中田さんは楽しげに、長い前髪と短い後ろ髪のバランスを調整していた。
前髪の長さを残しつつ分量を減らして軽くして、タイトでモードなベリーショートに仕上げる。
「仕上げにワックスで、ちょっとタイト気味に流すといいかな・・・。はい、どうぞ」と、にこやかにカット用のガウンを脱がされた瞬間、思い出した。
あぁ・・・そういえば、私の今日の服装、若干モード寄りだ。

その晩、お風呂でワックスを落とした後にドライヤーをかけると、長さを保ったまま軽くした前髪は、夏の草原を走る青鹿毛のたてがみのように、熱風にさらさらと頼りなくなびいた。

 

かくして、ど忘れ注文ミスの結果、たてがみボウズ。
しばらくの間、ステイホーム。
しばらくの間、鏡は見ない。

ま、すぐに伸びるけどね。
そしたら、もう一度、マッシュ風に切ってやるんだから!
カッパ黄桜カッパッパ~のイナバウアーで!

ここまで読んでくれたんですね! ありがとう!