帆を高く
わたしは、親しかった者にも、わたし自身にも、呆れられ、打ち捨てられていた。堕ちた者、だった。
望みなく打ちひしがれて動けずにいたとき、あなたに出会った。
気まぐれに手を伸ばしたとき、あなたは握り返してくれた。
思わず痛みをこぼしたとき、あなたは手を当ててくれた。
だからいまこうして呼吸ができる。
わたしはいま息づいて、己の息吹で風になる。羽ばたき起こした風に乗る。
帆を高く掲げるように、わたしの翼は広がった。しっとりとあたたかく、力みなく力強い、白色光の透明な羽根。
それはいつかは、闇夜のカラスの漆黒の羽根、深海の魚の真珠母色の鱗、龍の銀の皮膚だった。散り落ちてなお、光を享けてひらめく。
わたしの骨は含気骨。空気をはらむ、空気になれる。宇宙を懐く、真空の骨。
すべてを受けて、すべてを含み、すべてを包み、あなたを抱く。
あなたの手は、わたしの手。あなたが触れてくれたから、あなたに触れることができたんだ。わたしをあきらめないでいてくれて、ありがとう。
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