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正夢(ショート・ショート)

夢の中で僕はユニホームを着ていた。小さい頃から大好きだったジャイアンツのユニホームだ。

子どものとき、プロ野球選手を夢見ていた。もちろんジャイアンツの選手だ。でも、少年野球でレギュラーにもなれなかった僕の夢はあっさりと散った。

それが夢とはいえ、ジャイアンツの選手として打席に立っていた。60歳の太った体のまま。
球場は静まり返っていた。9回裏0対0の場面。ツーアウトランナーなし。僕が思い切り振ったバットはボールを捉えた。スタンドイン。サヨナラホームランだ。球場が一気に拍手と歓声に包まれた。僕は笑顔でベースを一周する。

「おい、何笑ってるんだ」
その声で目を覚ました。
僕は東京ドームのベンチに座っていた。
「次に行くから準備をしておけ」
監督が言った。
僕はジャイアンツのユニホームを着ていた。
僕はバットを持って立ち上がった。

僕の名前がアナウンスされると、球場が静まった。60歳の無名の太ったおっさんが名前を呼ばれたのだから、当然だろう。
でも僕には自信があった。さっきの夢は正夢なんだと。

1ボールからの2球目、僕は思い切りバットを振った。ボールは弧を描いてレフトスタンドに吸い込まれた。
観客の大歓声がドームに響き渡った。
僕はファーストベースからセカンドベースまで勢いよく走った。サードベースに向かう途中で足がもつれて転んだ。
「ホームまで行かないと点数が入らないぞ」
スタンドから野次が飛んだ。
僕は立ち上がって、再び走り始めた。心臓が痛かった。それでも僕はホームベースまで必死に走った。ホームベースに倒れ込んだとき、審判が「救急車を呼べ」と叫ぶのが聞こえた。
選手が集まってきた。僕は集まってきた選手に笑顔を向けた。そこで意識が途絶えた。

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