#217 家具アップサイクル ~裁縫箱をお母さんに贈った息子さんの巻
「こういうのを見させてもらえるから、この仕事をやってる意味があるのよねぇ‥‥」
先日、ReSTOREのお店のなかでとても温かい場面に出会えました。今日はそのお話になります。
二十歳前後のBoy band (日本ではアイドルグループですかね) から抜け出したような男の子がこれまた美人のお母さんと一緒に来店されました。
「ほら、これだよ。お母さんどう思う?」
嬉々として、お母さんに見せたのはなんと私が仕上げて店に置かれたばかりの古い裁縫箱。
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遡りますと、‥‥一か月前、それはこんな姿をしていました。
ソーイングボックス好きの私ですが、正直このデザインには魅力を感じていませんでした。
夏休み中はマネージャーの代理役としてひとりで店番をすることになっています。作業場を行ったり来たりせず、お客様が居ても作業を続けられるようなサイズ感‥‥ そんな理由だけでこれを選びました。
内側のソフトな部分は昔は柔らかかったかもしれない金色っぽいビロードのような装飾が。
まずは内側の装飾をすべて引っ剥がします。昔のボンドのような色のその接着剤が、嗅いだ記憶のないような嫌な臭いを放っていました。
(以下、ちょっとくどいので、興味のない方はすっ飛ばしてくださいね)
次に開閉メカニズムを担う金具をすべてドライバーで外します。注意しなければならないのは、これが大変古いものだということです。年月のせいでとにかく固いのと、マイナスドライバーを差し込む凹部分が脆く、どんどん大きくなってゆるゆるになったり、抜いている途中で折れることもあります。
案の定というべきか、16本のスクリューのうち2本を木に刺さったまま中で破損させてしまいました。
入れ直さなければならない新しいスクリューは、どう考えてもほぼ同じ場所ということになります。中に残った折れたスクリューは外から電動スクリュードライバーで押し出します。できた穴ですが、内側は幸い後でカバーできるので大丈夫。そして端木で同じ直径の竹ひごのようなものを作り、接着剤をつけて押し込んで表面を整えます。これで、またスクリューを固定できるまでの素地になりました。
私はもともと、アップサイクルというと『見た目』ばかりに注力していました。けれども、古い物は最大の TLC (ティー・エル・シー) がなければ見た目すらも整わないのです。TLCというのは、Tender (優しい) Loving (愛を込めた) Care (扱い) のこと。
メカニズムの金具もペイントした後で晴れて取り付けたのですが、木と金具とスクリューの間に小さなドーナツ型の部品(なんというのかわからない_を入れていて、そのわずかな厚みで金具が箱の表面に引っかからず動作するようになっています。
この金具が最後の最後に一か所引っかかって、せっかく何度も塗ったペイントが削げました(涙)スクリューを外してドーナツの数を増やしてみる、もう一度塗り直すなど、何度もTLCが求められたこと、やった人間しか知らないんですよね。
こうして、出来上がったのがこれです。まるで何事もなかったかのような顔で‥‥(笑)
上の取っ手を開くと、こんな感じ。
中のデコパージュが乾いた後、古さを出すためにお茶を飲んだ後のティーバッグでちょんちょんと色をつけました。
ガバーッと開けるとこんな感じです。
この裁縫箱をお店で見た冒頭の青年が、翌日お母さんを連れて現れたというわけです。
お母さんは、
「Wow, I love it!」と目を輝かせます。
「僕からのプレゼントだよ」
お母さんに値段も見せずに会計を済ませた若者の、なんというスマートさだったことでしょう。
しかも £100 でしたから、裁縫箱としてはなかなかのお値段だったと思います。
たまたまそこに居合わせたフレンチポリッシュ職人R氏が、小声で私に「ミズカが手掛けたって教えてもいいかい?」と確認し、その親子に私を紹介してくれました。
二人から感謝までされ、見送った後で、マネージャーMちゃんが言った言葉が冒頭のものでした。
私たちは皆息子を持つ身なので、この親子の来店は、相当な胸きゅん案件となりました。
どうですか、素晴らしいお母さんは、黙っていてもまわりが証明してくれるんですね。
私ときたら、息子二人を遠くへ見送ったばかりでしたから、このお母さんと息子さんの様子が微笑ましくて、そして羨ましくて‥‥
大袈裟に言えばちょっと眩しくて、実は直視できないところもあったのです。
「あの日、最後までお見送りできなくてごめんなさい。お母さんへの愛情と感謝の気持ちをカタチにできる息子さん、とっても素敵です‥‥」
私が言うまでもなく、きっとあの裁縫箱はあの方の一生の宝物となることでしょう。
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