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半年で顧客を10倍に増やした バーティカルSaaS立ち上げ秘話 〜急いで売るな。イシューと顧客から始めよ〜

私は、Ubie株式会社で、Ubie Discoveryというプロダクト開発・事業開発を担う組織に所属しています。この組織は不確実性の高い領域全般を担当し、いわゆる0→1のCPF/PSFフェーズ(課題探索・解決策探索)、1→10のPMFフェーズ(顧客満足・最適な市場選択)を扱います。

Discovery組織は、不確実性の高い領域を扱っているので、何が正解なのかは誰にもわかりません。仮説を立て、プロダクト開発・事業開発を進めていきますが、結構ドラスティックに方向性や優先順位を変えていくこともあります。そのため、私たちは組織を固定化せず、Discovery組織内でのメンバー異動も活発に行われています。

私自身は、Ubieに入社した2020年7月時点では海外事業の立ち上げをメインでやっていましたが、2020年10月〜2021年3月の6ヶ月は、国内のクリニック向け営業プロセスの立ち上げを行い、2021年4月からはプロダクトオーナーとしてプロダクト開発、と3-6ヶ月単位でフォーカスを変えてきました。

今回はその中でも、国内クリニック向けの営業プロセス立ち上げについて、四苦八苦しながら半年で顧客を10倍にした方法をつまびらかにお伝えしようと思います。

簡単かと思われたプロダクトの横展開に潜む落とし穴

Ubieのメインプロダクトである「AI問診ユビー」は、2017年のリリース後、最初の数年は総合病院(HP)をターゲットとし利用が進んできました。診療所・クリニック(GP)へのサービス提供を本格的に開始したのは、昨年2020年の5月頃と実は結構最近です。

昨年、シリーズBで20億円調達したこと、コロナの影響もありAI問診への世間の注目度が一気に上がりメディア露出も増えたことなど、様々な追い風を受け、HPだけでなくGPにも販売を拡大する(市場を拡げる)という意思決定をしました。

HPに対しては、「病院の業務効率化」「医師の働き方改革」というValue Proposition (VP)が顧客に刺さっており、当時すでに100以上の顧客を抱えていました。

すでにPMFを達成したプロダクトを、規模の違う医療機関に売るということで、GP事業の立ち上げは容易いだろう。立ち上げ当初はそう考えていました。

しかし、その考え方は甘かった。
同じ医療機関でも規模が違えばニーズは違う。そこは全く新しいマーケットだったのです。


総合病院(HP)は、診察だけの外来患者もいれば、手術・長期治療が必要な入院患者もいる。一方、クリニック(GP)は外来患者のみ。患者の種類が違う、働く人数も違う、オペレーションの複雑性も異なれば、当然課題に感じるところも違ってきます。

商談を繰り返すうちに、今まで通りのやり方ではワークしないという現実をまざまざと突きつけられ、私たちはある決断をしました。それが、ゼロに立ち返って顧客と向き合い直す、ということです。

私たちは、いまどこのフェーズにいるのか?
〜急がば回れ。原点に立ち返り、顧客と真摯に向き合う〜

簡単かと思われたプロダクトの横展開ですが、先述のとおり簡単ではないことがわかってきました。

すでにお金を払ってくれているユーザーはいたので、このプロセスを踏まずに営業のアクセルを踏むという選択もできました。しかし、スタートアップが失敗する最大の理由は “PMFに到達できないこと” であり、それはつまり前段のCPF/PSFのプロセスに丁寧に取り組まなかった結果とも言えます。目先の利益ではなく、中長期的な成功のためには、顧客と真摯に向き合う時間が必要だと考えました。

「私たちは、いまどこのフェーズにいるのか?」
スタートアップで働く人なら誰もが向き合うこの問いに、私たちは無駄な驕りを捨てて、4年目にしてもう一度向き合う覚悟をします。

Customer Problem Fit(CPF)できているのか?

CPF(カスタマー・プロブレム・フィット)とは「本当にその課題はあるのか?」「顧客はそれをペインと感じているのか?」を明らかにしていくフェーズです。

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やるべきことは大きく分けて4つ
1. 課題仮説:仮説を立てる
2. 課題の有無:顧客が課題だと感じているかを明らかにする
3. 課題の深さ:各課題の顧客にとってのペイン度を明らかにする
4. 課題の特定:どの課題に取り組むかを特定する

1. 課題仮説:仮説を立てる
顧客である「国内のクリニック」の課題を想像し、まずはメッシュ粗めな仮説をバーっと並べていくところから始めました。

・院長は、残業時間が長くて困っている
・院長は、カルテの作成に時間がかかって困っている
・院長は、1人あたりの診察時間が長くて困っている
・看護師は、問診票の記入内容が十分ではなくて困っている
・受付は、カルテの頭書き登録登録に時間がかかって困っている … etc

チームでブレストして課題仮説を最大まで発散させたあとは、「この課題はAI問診ユビーで解決できそうか?」という軸でさらにふるいにかけ、解決できそうな課題のみに絞り込んで行きました。

2. 課題の有無:顧客が課題だと感じているかを明らかにする
3. 課題の深さ:各課題の顧客にとってのペイン度を明らかにする

次に、課題の有無・ペイン度を明らかにするために、顧客インタビューを行いました。

インタビューは2種類。
1つは、ビザスク経由でのインタビュー。これは "潜在層"、いわゆるAI問診ユビーを知らないクリニックの院長に対して、フラットに彼らが感じている課題を聞くものです。
もう1つは、AI問診ユビーにWEB経由で問い合わせをしてくれた顧客へのインタビュー。いわゆる "顕在層" のニーズを明らかにします。なぜユビーに興味を持ったのか、ユビーを導入することでどんな変化を期待しているか、を徹底的に聞き込んでいきました。

4.課題の特定
インタビュー結果を通じて、わかったことが2つありました。

わかったことその1
今のPR・マーケティングでは高感度層(マイナー層)にしか刺さってない

できるだけ正しい診療をしたいというのは医師なら誰しもが当たり前に思っていることですが、それを月額・有料の外部ツールを使ってまで質を上げたいか、というとそこのニーズはかなり薄くなってしまいます。つまり、高感度層のニーズは「有る」けど、「普遍的ではない」ので、ここで価値訴求してしまうとマジョリティーには刺さらず、SaaSとしてはスケールの絵が描けない。マーケティングでここを主軸におくのはやめるという意思決定をしました。

わかったことその2
クリニックでも、紙問診票からの電子カルテ転記・作成業務は負担になっており、ここを楽にしたいというニーズがある。

そしてこの負荷を感じているのが、医師・看護師・受付など幅広いステークホルダーであることも明らかになりました。
これは、課題有り・ペイン度高い・普遍的であるという3点から、マーケティング・営業で訴求する価値はここをメインに据えていこうという意思決定をしました。

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Problem Solution Fit(PSF)できているのか?

PSF(プロブレム・ソリューション・フィット)は、CPFで特定した課題に対して、それを解決できる最適なソリューションを特定・提供できている状態のことです。

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Running Lean等の教科書的には、課題を特定→ソリューションを探す・特定するというのがセオリーです。逆のやり方をするなんて、愚の骨頂。悪手中の悪手。

けれども、丁寧にCPFを行ったことで、すでに私たちが持っているAI問診ユビーというプロダクトが、特定した課題を解決できるプロダクトであるという確信度が高まりました。結果論ではありますが、原点に立ち返って顧客と真摯に向き合うプロセスを経たことで、私たちはPSFのプロセスをスキップして次の段階に進むことができたのです。

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PMFへの挑戦
〜最適な市場はどこなのか〜

CPF/PSFのプロセスを通して、下記が定まりました。

顧客 Customer
:国内クリニック
課題 Problem
:紙問診票からの電カル作成業務負荷
解決策 Solution
:ユビー問診でカルテを自動作成

次にするべきは、このプロダクトをどの市場に投入するかです。
PMF(プロダクト・マーケット・フィット)とは、CPFで特定した課題を解決するために、PSFで特定した最適な解決策を、正しい市場に提供できている状態のことです。

顧客として「国内クリニック」を想定していましたが、これでひとくちで括ってしまうのはあまりにもラフすぎますし、クリニックによってニーズの濃淡があるのも明らかです。正しい顧客に正しいプロダクトを届けるためにまずしたのは、「ターゲット顧客のセグメント特定」です。

セグメントを切るというのが一番難しい作業だと思いますが、CPFの時に行ったインタビューやアンケートを事細かに行ったことで、どの軸で切ったら筋が良さそうかは大体検討がついていました。

初期仮説として切った顧客セグメントがこちらです
・横軸:1日あたりの患者数
・縦軸:再来患者の割合(リピート率)

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各象限ごとに、もっとも代表的な顧客パターンを当てはめ、どのセグメントにマーケティングしていくかを議論。結果、上図の黄色の3セグメントを狙っていくことにしました。

こうしたプロセスを1つ1つ無駄なく、かつ高速に行ったことで、マーケティングの軸・営業の軸が定まり、結果、商談での契約率は50%を超え、半年で利用顧客数を10倍に増やすことができました。

イシューと顧客から始めることの大切さ

個人的に昔から大好きな本が、安宅和人さんの著作「イシューからはじめよ」です。
課題を解く前に、その課題(イシュー)の質を上げなければ、犬の道に陥ってしまう。知的生産性とは、闇雲に大量のデータ収集や分析を行うことではなく、解くべき課題を見極めることであるというのが主題の本で、発売以来何度も何度も読み返しては「私は本当に解くべきイシューを扱っているのか?」という自問自答を繰り返しています。

スタートアップでは、人的資本も限られるため、一人一人の知的生産性を圧倒的に上げないと指数関数的な成長曲線には到達できません。今回は「高速でイシューの質を見極める」という一見遠回りなプロセスを踏んだことで、結果その後のマーケティング・営業活動が爆速で進みました。

バーティカルSaaSの本質は「いかに顧客に価値を届けられるか」です。エゴを捨て、真摯に顧客と向き合い続けること。解決しようとしている課題が本当に顧客にとって価値のあるものなのかを追求し続けること。私たちの挑戦は、この繰り返しの上にしか成り立たないし、まだまだ道半ばだなと感じるこの頃です。

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