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ため息俳句29  なべ焼きうどん

  蕎麦かうどんかと問われれば、蕎麦と答える。
 しかし、この季節なら、うどん、それもなべ焼きうどんが、何より好ましい。
 ただ一つ問題なのは、あれは見映えよく食べるのが難しい。熱々の麺と汁、土鍋は保温性が高いのでなかなか冷めない、従ってよく暖房のきいた店内であれば、必ずおでこか鼻の周辺から汗が噴き出す。
 そういうわけで、若い頃は、なべ焼きうどんは一人で食べるものと決めていた。
 それが、ある時、向かいに座ったあの子が注文したのだった。

君頼むなべ焼きうどんとは謎だ 空茶


 だが、中島みゆきの「蕎麦屋」という曲がある。自分の主観では、彼女の数ある名曲の中でも五指に数えられると思っている。題名は、「蕎麦屋」であるのに、あのシチュエーションで主人公の女性は、悔し涙を流しながら「たぬきうどん」を食べていたのであった。これを聴いて、中島みゆきという人の才能に改めて感服した。やはりそこは「きつね」でも「天ぷら」でも「おかめ」でも、まして「なべ焼き」は論外、「たぬき」一本だと。そして彼女を慰めんと空回りするお調子者の「お前」は、丼に顔を突っ込んでとまであるが、何を食べていたかは言及されない。自分が推測するならば、飯ものの丼、天丼かつ丼はエラソーなので、一番チープな卵丼としておこう。
 
 後年、この曲を聴いて、あの「なべ焼き」の彼女を思い出した。そうして、この曲の「お前」と重ねあわせて、一定の気づきを得たのだった。謎も解けた。