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現代語訳『さいき』(その21)

 一通りの準備が整うと、正室は急病を患った振《ふ》りをして佐伯を呼び寄せた。
「体調が思わしくなく、妹への消息《しょうそく》を書けそうにありません。大変恐縮なのですが、代わりに殿《との》の手で一筆したためてくれませんか」
「承知した。取りあえずやってみよう」
 佐伯は言われた通りに代筆した。

(続く)

 正室の策は続き、京の女に疑念を抱かせないよう、佐伯の手で手紙を書かせます。そろそろばれそうな気もしないわけではありませんが、女と別れて三年が経ち、完全に忘れているのだと思います。

 前回と今回の二人の会話を見る限り、佐伯は正室の頼みごとを気安く引き受けてくれるいい夫に見えます。一方で、何年間も家を空けたままにしても互いに相手を気遣う様子がなかったことを考えると、佐伯は夫婦愛よりも義務感で対応しているように思われます。特に文中では示されませんが、きっと正室のバックには粗略に扱えない太い実家があるのでしょう。

 それでは次回にまたお会いしましょう。


【 主な参考文献 】


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