現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その47)

 このままでは極めて具合が悪いと悩んだ皇后宮《こうごうのみや》は、姫君を宮の宣旨《せんじ》の里に移すことにした。確かに不安ではあるものの、姫君はまだ若く、他人が出自を詮索するような容姿ではないので、何とかごまかしきれるはずである。しかも宮の宣旨と尼君以外には姫君がこの世にいることを知る者はいない。
 ただ、姫君本人が自分の素性について疑念を抱くのは不本意で、恋しく気掛かりなのに直接世話をすることができないのがひどく悲しかったが、そうは言っても不都合なままで放置しておくわけにはいかない。すべてを忘れて夜のうちに牛車を用意し、宮の宣旨を音羽山へと遣わした。
(続く)

 皇后は姫君を音羽山から移すことを決意し、すぐさま実行に移します。決断力・行動力に優れているのは尼君と同じで、血がなせる技と言うよりもむしろ、苦労を重ねた末に身に付いた処世術だと思います。

 さて、姫君はついに隠れ住んでいた山里を離れ、都に向かうことになりました。新しい章の始まりです。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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