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現代語訳『さいき』(その3)

「男として生を受けたからには、あのような女と一夜を過ごしたいものだ」
 恋心が抑えきれなくなった佐伯は、何としてでも声を掛けたいと思い、そっと女に近づいた。
「失礼ですが、あなたもここで参籠《さんろう》しているのですか」
 しかし、女は聞こえない振《ふ》りをし続けたため、「ひょっとしたら愛する人が近くにいるのかもしれない」と心が千々に乱れた。

(続く)

 一目ぼれした佐伯は、さりげなさを装って女に声を掛けましたが、完全に無視されてしまいます。

 文中にある「参籠《さんろう》」とは、寺社に昼夜籠もって祈願することを意味します。ひたすら念仏を唱え続け、もうろうとしたときに見る夢が「神仏のお告げ」になるというわけです。
 後ほど判明しますがこの場面は夜で、ろうそくが灯された薄暗い大部屋でのやり取りになります。つまり、佐伯が「女のパートナーが近くにいるかもしれない」と曖昧な推測をしているのは、周囲がよく見えないことが原因になります。

 それでは次回にまたお会いしましょう。


【 主な参考文献 】


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