現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その48)

 姫君が様々に思い悩んで過ごしていたところ、夜更けになって牛車がやって来たが、それが皇后宮《こうごうのみや》に仕える宮の宣旨《せんじ》だとは知る由もなかった。
 整った身なりをした恰幅《かっぷく》のいい女が落ち着いた様子で車から降りてきて、姫君に向かって「さあ、早く車にお移りくださいませ」と告げた。今に始まったことではないものの、とにかく事情がまったく飲み込めず、どこに行くのかも分からないことに姫君は当惑した。
(続く)

 姫君は訳が分からないまま、いきなり音羽山を離れることになり、かなり戸惑っています。

 やって来た宮の宣旨のコミカルな外見が詳細に描写されています。ほとんど人と接する機会がなかった姫君には、相当インパクトのある印象だったようです。
 ただ、主役級を差し置いてまで描写するような人物ではありませんので、やはり以前にも触れたように、女房たちのことになると妙に力が入る作者の癖が出たのだと思います。また、何の根拠もありませんが、実在人物をモデルにした内輪ネタのような気がしてなりません。
 このようにあれこれと勘ぐってしまうくらいに今回の箇所は浮いていて、作者像や想定読者に迫る重要なヒントになっていると、わたしは考えます。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


※Amazonで現代語訳版「とりかへばや物語」を発売中です。
 https://www.amazon.co.jp/dp/B07G17QJGT/