現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その46)

 帝が戻って来ると、皇后宮《こうごうのみや》が赤くほてった顔で苦しげに臥《ふ》していたため、どうしたのかと心配して取り乱した。皇后宮は二宮を引き留めるために、体調が悪い振りをしたまま急いで自分の殿舎《でんしゃ》へと下がり、いつも以上に話し掛けて離さなかったので、二宮は外出を諦めざるをえなかった。
 皇后宮の病の噂は関白の耳にも入り、ひどく胸を痛めた。大丈夫なのかと気を揉《も》むものの、馳《は》せ参じるわけにもいかない。動揺する心中を隠したままさりげなく権中納言を呼び、「一大事なのですぐに見舞うように」と自分の名代《みょうだい》として遣わした。
(続く)

 皇后は仮病で二宮を宮中に引き留め、姫君のいる音羽山に行かせないようにします。とっさの思い付きとはいえ、暫定措置として確かに効果があったようです。

 また、病の話は関白の耳にも入り、落ち着かないまま息子の権中納言に見舞いに行くように言いつけます。
 この後、何があったのか一切触れられていませんが、特記事項がないということは、応対者に口上を伝えてまっすぐ帰ったと思われます。しかしながら、関白の代理として権中納言がやって来たと知らされただけで、皇后はひどく胸を痛めたはずです。
 皇后の心労が、少しずつ重なっていきます。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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