現代語訳『さいき』(その21)
一通りの準備が整うと、正室は急病を患った振《ふ》りをして佐伯を呼び寄せた。
「体調が思わしくなく、妹への消息《しょうそく》を書けそうにありません。大変恐縮なのですが、代わりに殿《との》の手で一筆したためてくれませんか」
「承知した。取りあえずやってみよう」
佐伯は言われた通りに代筆した。
(続く)
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正室の策は続き、京の女に疑念を抱かせないよう、佐伯の手で手紙を書かせます。そろそろばれそうな気もしないわけではありませんが、女と別れて三年が経ち、完全に忘れているの