たま
『とりかへばや物語』と異性装(男装女子・女装男子)の古典に関する記事を含むマガジンです。
御伽草子『さいき』の現代語訳(全訳)です。
王朝物語『我身にたどる姫君』の現代語訳です。
雑多なものの寄せ集めです。古歌の現代語訳や古典作品に関する雑談、創作古語など。
わたしのnote.comの記事でアクセス数の多いものを、名刺代わりに挙げておきます。 ① 『とりかへばや物語』を知っていますか? ② 異性装(男装女子・女装男子)を扱った…
ここでは『さいき』の謎のひとつである「京の女はなぜ佐伯に惚《ほ》れたのか」について、個人的な推察を述べておきます。 (以前にふせったーで投稿した内容と重複しま…
ここでは、何度か取り上げてきた「『さいき』改変説」について改めて整理をします。 現存する『さいき』にはいくつかの問題が存在し、複数の作者が関与した可能性を示…
正室の出家を知った京の女はひどく驚いた。 「身分の上下にかかわらず、愛する人を奪われたら嫉妬するのが世の常だというのに、何と情の深い心延《こころば》えでしょう…
対面した正室は、目映《まばゆ》いばかりの相手の美貌に胸を衝《つ》かれた。 「何と気品のある女性でしょう。武帝《ぶてい》の李夫人《りふじん》や楊貴妃《ようきひ》…
手紙を受け取った女は大いに喜び、すぐに都を立った。その後、豊前国《ぶぜんのくに》にある佐伯《さいき》の館《やかた》に無事に到着し、話を聞きつけた人々がひしめき…
『長らくの不義理をどうかご容赦ください。心苦しい日々を過ごしていたところにあなたから消息《しょうそく》が届き、朝夕、肌身離さず持ち歩き、喜びをかみしめながら何度…
一通りの準備が整うと、正室は急病を患った振《ふ》りをして佐伯を呼び寄せた。 「体調が思わしくなく、妹への消息《しょうそく》を書けそうにありません。大変恐縮なの…
一計を案じ、鷹狩《たかが》りから帰ってきた佐伯にさっそく相談を持ち掛けた。 「わたくしの妹は都でとある男性と一緒に暮らしておりましたが、気の毒なことに他の女に…
読み終えた佐伯の正室は大きな嘆息をついた。 「何と愛らしく趣《おもむき》のある恋文でしょう。この素敵《すてき》な方をぜひとも当屋敷にお招きしたいところですが、…
手紙の最後に歌と共に、佐伯《さいき》が都を立つ際に形見として渡した鬢《びん》の髪が添えてあった。 見る度《たび》に心尽《こころづく》しのかみなれば宇佐《う…
(続く) ★ 女からの手紙(その3)です。 前回(その2)は率直で分かりやすい表現でつづられていましたが、また少し難しめの表現に戻っています。締めに近づいたこ…
(続く) ★ 女からの手紙(その2)です。 前回(その1)は枯れた草の例えで疲れ切った心情を吐露していましたが、今回は眠れぬ夜の状況をありのままに語っています…
(続く) ★ 女からの手紙の内容(その1)です。 迎えどころか便りすらないことに疲れ果てた女の心情が、枯れた植物として表現されています。 少し補足すると、「…
代わりに手紙を受け取った佐伯の正室は、首を傾《かし》げながら封を切り、綴《つづ》られた言葉に目を通して息をのんだ。 (続く) ★ 佐伯に妻がいることが、ここ…
やがて僧は豊前国《ぶぜんのくに》にある佐伯《さいき》の館《やかた》にたどり着いた。 「こちらは都のとある方より承った御消息《ごしょうそく》でございます。恐れ入…
2022年4月2日 23:24
わたしのnote.comの記事でアクセス数の多いものを、名刺代わりに挙げておきます。① 『とりかへばや物語』を知っていますか?② 異性装(男装女子・女装男子)を扱った古典作品とその起源について③ 現代語訳『我身にたどる姫君』(作品紹介)④ 現代語訳『玉水物語』(その一)①②は古典作品の紹介や考察、③④は現代語訳がメインです。後者は加筆校正したバージョンをKindleストアで公開
2023年2月4日 20:00
ここでは『さいき』の謎のひとつである「京の女はなぜ佐伯に惚《ほ》れたのか」について、個人的な推察を述べておきます。(以前にふせったーで投稿した内容と重複します) 結論から言うと、清水寺の本尊である「十一面千手観世音菩薩」による救済《くさい》が原因だと考えています。 この「観世音菩薩」は「慈悲で人々を救う」と言われています。信心深い者たちの味方ですので、日頃から清水寺に通っている京の女も
2023年2月3日 20:00
ここでは、何度か取り上げてきた「『さいき』改変説」について改めて整理をします。 現存する『さいき』にはいくつかの問題が存在し、複数の作者が関与した可能性を示唆しています。上記の問題点は、改変前に以下の設定だったと仮定すると解消します。 仮に「鎌倉の鶴岡八幡宮」が初期バージョンだったとした場合、「京都の清水寺」に改変された理由については、鎌倉幕府の栄光に関する記述を消すためだった可能性
2023年2月2日 20:00
正室の出家を知った京の女はひどく驚いた。「身分の上下にかかわらず、愛する人を奪われたら嫉妬するのが世の常だというのに、何と情の深い心延《こころば》えでしょうか。そもそも、わたしがあの人と再会して積年の思いを果たすことができたのは、奥方の情けのおかげです。このように殊勝な方をお一人で捨身《しゃしん》させたまま見過ごすわけには参りません。不肖ながら、わたしもご一緒します」 すぐに髪を切り捨て、正
2023年2月1日 20:00
対面した正室は、目映《まばゆ》いばかりの相手の美貌に胸を衝《つ》かれた。「何と気品のある女性でしょう。武帝《ぶてい》の李夫人《りふじん》や楊貴妃《ようきひ》、衣通姫《そとおりひめ》、小野小町《おののこまち》といった伝説の美女たちと比べてもまったく遜色なく、あまりの美しさに茫然《ぼうぜん》とします。殿《との》はこれほどの方を見放したのですから、ましてやこのわたくしのことは、長い在京中に一度たりと
2023年1月31日 20:00
手紙を受け取った女は大いに喜び、すぐに都を立った。その後、豊前国《ぶぜんのくに》にある佐伯《さいき》の館《やかた》に無事に到着し、話を聞きつけた人々がひしめき合う中、完成したばかりの別邸に入った。(続く)★ 京の女が佐伯の屋敷に到着しました。 佐伯・正室・京の女の三人が集まると、何が起きるのでしょうか。 間もなく物語は幕を閉じます。ここまでの展開も十分早かったですが、さらにスピ
2023年1月30日 20:00
『長らくの不義理をどうかご容赦ください。心苦しい日々を過ごしていたところにあなたから消息《しょうそく》が届き、朝夕、肌身離さず持ち歩き、喜びをかみしめながら何度も読み返しています。迎えの者を遣わしますので、すぐに筑紫《つくし》へとお下りください。詳しい事情につきましては、屋敷でお目に掛かった際に直接伺《うかが》いたいと存じます』 書簡を携えた使者が京に向けて出発し、佐伯は立派な別邸を造成して到
2023年1月29日 20:00
一通りの準備が整うと、正室は急病を患った振《ふ》りをして佐伯を呼び寄せた。「体調が思わしくなく、妹への消息《しょうそく》を書けそうにありません。大変恐縮なのですが、代わりに殿《との》の手で一筆したためてくれませんか」「承知した。取りあえずやってみよう」 佐伯は言われた通りに代筆した。(続く)★ 正室の策は続き、京の女に疑念を抱かせないよう、佐伯の手で手紙を書かせます。そろそろば
2023年1月28日 20:00
一計を案じ、鷹狩《たかが》りから帰ってきた佐伯にさっそく相談を持ち掛けた。「わたくしの妹は都でとある男性と一緒に暮らしておりましたが、気の毒なことに他の女に横恋慕され、暇《いとま》を告げられてしまいました。都を離れてこちらを頼りたい旨の文《ふみ》を送って参りましたので、どうか迎えを出させてもらえないでしょうか」「相分《あいわ》かった。すぐに人を遣わそう」 佐伯は二つ返事で承諾し、下人たちに
2023年1月27日 20:00
読み終えた佐伯の正室は大きな嘆息をついた。「何と愛らしく趣《おもむき》のある恋文でしょう。この素敵《すてき》な方をぜひとも当屋敷にお招きしたいところですが、道理をわきまえないあの人をどのように説得致しましょうか」(続く)★ 京の女からの手紙を読んだ佐伯の正室は、怒りや嫉妬といったネガティブな感情を抱くのではなく、「この女性を屋敷に呼び寄せたい」と予想外の反応を示します。 本文で
2023年1月26日 20:00
手紙の最後に歌と共に、佐伯《さいき》が都を立つ際に形見として渡した鬢《びん》の髪が添えてあった。 見る度《たび》に心尽《こころづく》しのかみなれば宇佐《うさ》にぞ返《かへ》す元の社《やしろ》へ (目にする度に心がかき乱れますので、この髪は宇佐《うさ》神宮にお返し致します)(続く)★ 手紙には佐伯の髪と共に、「形見の髪を返す」という趣旨の歌が添えられていました。「これ以上は耐え
2023年1月25日 20:00
(続く)★ 女からの手紙(その3)です。 前回(その2)は率直で分かりやすい表現でつづられていましたが、また少し難しめの表現に戻っています。締めに近づいたことを意識し、やや冷静さを取り戻したのでしょうか。 ただ、鳥がテーマの多くを占めてはいるものの、方向性が異なる鏡や海などの要素も入り交じっていて、あまり洗練されてはいませんが、情緒不安定な感じがして個人的に好きな書き方です。
2023年1月24日 20:00
(続く)★ 女からの手紙(その2)です。 前回(その1)は枯れた草の例えで疲れ切った心情を吐露していましたが、今回は眠れぬ夜の状況をありのままに語っています。始めは古歌や故事を引きながらできるだけ上品に書こうとしていたものの、次第に募る思いを抑え切れにくくなってきた――といったところでしょうか。 ちなみに、日の入りから日の出に掛けての時間に関する表現は、「夕べ(ゆふべ)」「宵(よひ
2023年1月23日 20:00
(続く)★ 女からの手紙の内容(その1)です。 迎えどころか便りすらないことに疲れ果てた女の心情が、枯れた植物として表現されています。 少し補足すると、「葛《くず》の葉」は風で裏返ることから「裏」や「恨み」に掛かる枕詞です。ここでは「枯れ果てた自分」とは対照的な「大きな葉の葛《くず》」を別の女と見立てながら「恨み」に掛けていますので、あえてそのまま訳しました。 ご覧の通り原文は基
2023年1月22日 20:00
代わりに手紙を受け取った佐伯の正室は、首を傾《かし》げながら封を切り、綴《つづ》られた言葉に目を通して息をのんだ。(続く)★ 佐伯に妻がいることが、ここで初めて読者に明かされました。しかも、都で見捨てた女の手紙をいきなり読まれてしまいます。――いわゆる修羅場からのスタートです。 わずか一行に多くの情報が詰め込まれていますが、原文はもっと短く、「内の女房、この文を取りて見てあれば」
2023年1月21日 20:00
やがて僧は豊前国《ぶぜんのくに》にある佐伯《さいき》の館《やかた》にたどり着いた。「こちらは都のとある方より承った御消息《ごしょうそく》でございます。恐れ入りますが、家主《いえあるじ》殿にお渡しいただきたく存じます」 僧は応対した下人《げにん》に書簡を渡したが、あいにく佐伯は泊まりがけの鷹狩《たかが》りで不在だったため、返事をもらうことなく屋敷を後にした。(続く)★ 手紙は無事に