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ヴェネツィアの宿

とある作家さんが須賀敦子さんの文章が美しいと言っていたので「ヴェネツィアの宿」を読んでみた。正直なところ文章が美しいのかどうかは私には分からなかったのだけど、そこに書かれている体験のユニークさに心を奪われた。
作者は、恐らくは裕福な、でも両親の夫婦関係はあまりよくない家庭で育ち、ミッションスクールで教育を受けて、大学と大学院に進み、海外留学をした経験がある。しかも戦後まもなくの1950年代に。
女性が結婚に頼らずとも学問を続けていく方法を模索したかったということが書かれていた。当時としては相当に「道を外れた」女性ということになる。
だから、文章がどうのこうのという以前に書かれている内容が面白かった。
須賀さんがこの本を書いたときは60代を超えていたらしいが、少女時代の思い出が、まるでさっき見てきたかのように鮮明に描写されているのに驚いた。記憶力と正確な描写力(イメージを言語に置き換えて他人に理解させる力)が秀でているのだと感じた。

エッセイからはもう戻れない過去への憧憬が読み取れて、読後は少し悲しい気持ちになった。
作者が阪神間で育ったということで、自分が聞いたことのある地名が出てくるのが良かった。私は、本や映画に自分の知っている場所が出てくると快感を覚えるタイプらしい。


写真は2007年にヴェネツィアを訪れた時のもの。
教会の鐘が鳴る音が朝から響いていたのを覚えている。
この時に買った素敵なシールは勿体なくて使えず、まだ手元にある。
若かったので「いつかまた来るときがあるさ」と気楽に考えていたが、結局再訪はしていない。

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