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あえて異質な人と働いてみる ー 多様性はなぜサステナブルにつながるか

WBCでの初の日系人ラーズ・ヌートバー選手の活躍を拝見して、多様性ってこういうことだよね、と思うところがあり、今回は職場での多様性ってサステナブルにつながると感じた経験をシェアします。

事実上のアジア人雇用禁止令 怒りと発見

8年ほど前のことです。私が所属していたチームの人種がアジア系に偏りすぎていたことがありました。ニューヨークのチームなのに、いつのまにか8割強がアジア系。

アメリカの会社はダイバーシティ強化の一環として部門の人種構成も気にします。そんな状況を見た当時の部門長から、事実上のアジア人雇用禁止令がでました。

当然、当時の私はこの対応に憤りを感じました。応募者の今までの努力や経験は考慮せず、人種だけをみて書類選考を落とす、というのはとても抵抗がありました。人種差別に加担している気にさえなっていました。

あやふやな記憶ですが、履歴書の束(50枚ぐらいでしょうか)の中で、非アジア人が5-10人ほど、面接に進むのは3-5人ぐらい、という感覚でした。人種のフィルターをかけるといきなり狭き門になります。

こんなに書類選考を通過する人が少ないということは構造的な問題だとして、採用募集をかける場所を新規で探すことに。今までは主にニューヨーク周辺の大学院へ募集をかけていましたが、新しくリクルートエージェントを雇ったり、夜間の職業訓練所的な場所に募集をかけました。

ある夜にリクルーティングイベントに参加し、求職者と直接お話をする機会がありました。話してみてわかったことは、就労許可がすでにあるアメリカ人や永住者は大学院に行くよりも職業訓練所に行ってトレーニングを受けるほうが一般的だということです。(注: 大学・大学院に行くと学生・就労ビザがおりるので一般的に留学生の割合が多くなります。)

当初は不満に感じていたアジア人雇用禁止令ですが、結果的に採用過程の構造的なバイアスを明るみにしたのです。

異質な新人の行動から見えたもの

そんなこんなで普段の五倍ぐらいの労力をかけ、無事に新しく二人の非アジア人を雇いました。一人はアメリカ北東部出身の白人男性、もう一人は南部出身のラテン系の女性です。二人とも関連分野で博士号を持っていてすばらしい経歴の持ち主です。

しかしながら、働き始めてからしばらくしていくつか驚いた行動がありました。

まず、オフィスに来るのが他の人よりもだいぶ遅いこと。大体みんな9時に来るのが暗黙の了解になっていましたが、二人は10時にくればいいほうで遅い時は11時近くに出社していました。話を聞いてみると夜型の生活だから朝早く起きられないとのこと。

そんな調子なので週一回の朝のチームミーティングにも遅れてきたり、間に合わないこともありました。

出席したチームミーティング中にも、他のメンバーは上司が何か言うであろうと予想して静かになっているところで、空気を読まずどんどん発言していきます。

日本で生まれ育った私は日本の学校を思い出し、「これから社会人としての自覚とみんなの時間の重要性をとうとうと語る説教セッションが始まるのかな?」と興味津々で見守っていたのですが、当時の上司の解決策はいたってシンプル。

チームのミーティング時間を変えることでした。
(確か朝9時から11時に変更したと記憶しています。)

都合が悪い人がいるなら違う時間にすればいい、と今思うとあたりまえな考え方ですが、当時は驚いたことを覚えています。

当時の上司は出社時間については気にも留めてないようで、会議中の発言も活気が出て良いというようなコメントをしていた気がします。

確かにあらためて考えると、

  • 定時にオフィスにいることにあくせくしてなんの意味があるのか

  • まわりの人が無理しない範囲で自分のライフスタイルにも合う変更を提案してなにが悪いのか

  • 呼ばれて出席しているミーティングで発言してなにが悪いのか

いい反論は見つかりません。



異質とも言える二人がチームに入ってから、徐々にいい面も見えてきました。

同じ情報に対しても気になって追求する点が違ったり、納得するプロセスが違ったりして、二人がいなかったらこういうディスカッションの展開にはなってなかっただろうな、と感じることが増えました。

これがいわゆる物事を多角的にみるというやつか、と実感しました。

均質的な組織が陥りやすいグループシンク(集団浅慮)とは

別に人種が違うから多角的に見れると言いたいわけではありません。でも同質的な組織だと、同調圧力により知らず知らずのうちに不合理な意思決定がなされる場合があると思います。

この現象は心理学用語でグループシンク(Groupthink:集団浅慮)と呼ばれているそうです。

グループシンクは特に「均質性(構成員のステータスが均質で多様性のなさの度合い)が高く、擬集性(集団が構成員を動機づけ、一員として引き付け拘束する度合い)が高い集団」で発生しやすいと言われています(引用元)。

グループシンク(集団浅慮)の例
https://corporater.com/resources/avoiding-groupthink/

異質な新人の二人が入ってくるまではあまり感じたことがなかったですが、振り返ってみると私がいたチームはグループシンクの状態に陥っていたのかも、と気付かされました。

今だから言えることですが、二人の自由な行動に当時心の中で『なんだこいつ』と思ったのは一度や二度ではありません。

自分はこんなに労力をかけて9時前に着くようにしているのに。ここは上司の出番だからみんな黙ってるのに。今思うと、自分の我慢を相手にも強要したい気持ちだったのかもしれません。

誰かが何かしたとき(又はしなかったとき)、口に出すほどでもないけどちょっとイラッとする、みたいな。和を乱されてソワソワしちゃう感覚です。

そういう風に感じてしまう集団は、多分グループシンク(集団浅慮)の状態になっている可能性が高いのかなと思います。

参考文献:経済産業省「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」

『多様であること』と『多様性を受け入れること』

アメリカだから多様だよね、という短絡的な話ではありません。ニューヨークだからこそ日本にいる時よりも人種、学歴、階級重視の差別的な社会を覗き見することもあります。

でも、アメリカは過去に人種差別していた歴史があるからこそ、アファーマティブアクション(社会的弱者に対する社会的・構造的な差別を救済する取り組みのこと)を取ることにも積極的です。多様性を受け入れ、柔軟に対応する素地ができていて、マイノリティの立場からも自分のニーズを言葉で伝えて調整をはかるのが上手だなと感心します。

日本では、新しい職場に入って、自分は朝弱くてチームのミーティングが早すぎるから時間を変えてくれ、とお願いできる新人はどれくらいいるでしょうか。また、上司の立場で新しく入ってきた部下が夜型人間だからミーティングの時間をずらそう、と対応できる人はどのぐらいいるでしょう。

当時の私の感覚だと本当に驚きましたが、今思うと本質に関係ないところは柔軟に対応して、各々働きやすい環境を作ったほうがチームとして目標達成に近づくのではないかと感じています。

多様性を受け入れつつ成果をだすには

そんなこと言っても異質な人と働くと、士気が揃わずに成果が上がらないのでは?と疑問を抱く人もいるかと思います。でも成果を出すには別にみんなが空気を読んで同じことをする必要はない場合がほとんどです。

組織の中でのパフォーマンス管理法は色々ありますが、ざっくりまとめると以下のようなものが多いかと思います。

  • 大きな夢、目標を共有する

  • 成果指標、評価基準を明確にする

  • フィードバックをこまめにする

  • 成長が必要な分野での学習機会をつくる

先程の例を取ると、チームのみんなが同じ時間に出社することは、大きな夢、目標にとってどれほど大事ですか?他のアプローチで同様の成果を出す方法を試してみましたか?

もちろん場面や職種によって、なにが大事かという答えは変わります。

でもここで言いたいことは、均質な組織で知らず知らずのうちに、本質とは関係ないところにこだわって、無意味に自分たちの首を締めストレスをつくりだしていませんか?また、無意識で仲間外れにしている人たちはいませんか?

あえて異質な人と働いて多様性を受け入れることで、本当に大事なことは何かと問う習慣ができ、小さなことは気にしないようになりました。また、より多様で多くのタレントプールから採用するようになり、優秀な人材の確保が以前と比べると容易になりました。



ここからは素人の想像の限りですが、冒頭のヌートバー選手の話に戻ります。チームの中で一人だけ日本語がわからないメンバーがいるというのは大変だと容易に想像できます。煩わしく、必要のない手間だ、と考えメンバーに入れないという選択をする監督もいるかもしれません。

でも強い日本代表チームを作って勝つという目標に言語は直接関係ない、通訳を入れればいい、コミュニケーションは違う形で取ればいい、と本質的に何が大事か考え多様性を受け入れた結果、日本人選手だけでは作れなかったであろうチームの雰囲気とか、アメリカの中継で直接インタビューを受け日本代表チームの様子を伝えることが可能になりました(トップ画の引用元動画)。

もちろん、日系人の選手を選んだことで日本人選手から出場機会を奪ったという批判的な見方もできますが、少子高齢化・人口減少が避けられない中、日本人の選手だけを選ぶより、日本代表としてWBCに参加を希望する出場資格のある選手から選んだ方がタレントプールも多いし、将来を見越しても持続可能に強いチームが作れると思います。

今日から少しずつできること

そんなこといっても、人種の違う人とか日系人とか周りにいないよ、という人も多いかもしれません。でも、自分の周りに目に見える多様性があまりないと感じても、多様性を受け入れる行動は普段からできます。

最後に私が普段気をつけていることをシェアします。

自分がマイノリティと感じる集団では、自分のニーズを伝えるようにする

自分だけワーキングマザー、自分だけゆとり世代、といったような目に見えないけどマイノリティという状況って意外とあります。そんな時は自分が困っていることを他の人は知らない場合がほとんどなので、攻撃的にならず、申し訳無さそうにもせず、フラットな感情で自分のニーズを伝えるようにしています。

あまりミーティングで発言しない人には、喋る機会をつくる

ミーティング中に発言しない人は、ミーティングが終わる前に喋る(喋らせる?)機会をつくるようにしています。発言していないのは反対意見があるからかもしれないし、何らかの理由で疎外感を感じているのかもしれません。もしかしたら一見わからないけど自分はマイノリティだと感じているかもしれません。そういう人の発言機会をつくることで、多数派から出なかった意見がでるかもしれません。

少数派の意見にも耳を貸す

ミーティング中の発言で、今そっちの方向にいくか?と感じるものもあります。そういう意見もすぐにシャットダウンせず、耳を貸すようにしています。個人的に良いと思わない意見でも、その場にいる他の人が良いと思う意見はたくさんあります。少数派の意見にも時間をかけると他の人の反応を見ることができます。

採用枠がある場合には、異質な人も面接してみる

前述の経験から、採用する人の多様性には気をつけるようにしています。面接をする候補者にも偏りが無いか気を配っています。


というわけで、あえて異質な人と働いてみませんか。

無理をせず、よりサステナブルに成果を出す働き方を見つけるきっかけになるかもしれません。



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