【Le Ragazze Amate dai Lupi #3 】Oriana Sabatini
Paulo DybalaのAS Roma加入。
あの夏、世界中のロマニスタは狂喜し、新たな時代の到来とECL初代王者のチームの更なる躍進を確信した。ディバラの入団セレモニーは大々的に執り行われ、遠くアジアの極東に住む私も昂る高揚感に襲われたものだ。
カルチョ界の宝石、Dybala。
これまで多くの人々が、彼の芸術的なプレーとその美しい容姿に惚れてきた。Baggio、Del Piero、そしてFrancesco Totti。彼らが輝いていた時代はすでに過去。現代サッカーに於いて絶滅危惧種とされている、ファンタジスタ。彼もその1人であり、今現在彼のプレーをリアルタイムで拝めることは最高に幸せだ。
大勢のカルチョファンを虜にして離さない”La Joya”。
そんな彼の心を奪った女性がいる。
彼女の名はOriana Sabatini。
出自と幼少期
Oriana Sabatini。1996年4月19日生まれの27歳。ブエノスアイレス出身。
イタリア系アルゼンチン人のOsvaldoとベネズエラ人のCatherineの間の長女として生まれた。両親は共に俳優である。Osvaldoはアルゼンチンでは有名な女子テニス選手であったGabriela Sabatiniの弟。ちなみにCatherineはバツイチ。
そんな家で育ったOrianaは母親と同じようにモデルと女優の道にまず進むことになる。幼少期から演技や歌、ピアノ、演劇の稽古に励んでいた彼女は、13歳でとある雑誌においてモデルデビューをする。その後、15歳でテレビ出演し、芸能界での人生を本格的にスタートすることとなった。
歌手デビュー
2017年の4月、21歳になった彼女は音楽活動を本格的に始動した。最初にリリースした曲は『Love Me Down Easy』。
特別印象的な曲調や歌詞があるわけでは無いものの、部活の仲間とクラスの女子数人で郊外の川に遊びに行ったあの頃を思い出す、そんな雰囲気のある曲。中学を卒業して、高校生活始めての夏。少し背伸びできた気がして、青春の高鳴りを感じていたあの夏。僕が一目惚れしたあの子は、友人に取られたけど、田舎と言うには過剰なあの丁度良い故郷で過ごしたあの時期は忘れられない。ちなみに歌詞はそんなことを歌ってる訳ではない。
2ndシングルの『What U Gonna Do』も『Love Me Down Easy』同様にティーンエイジの少女の純粋な恋愛を歌った曲である。「私を連れてどこに行くの?」「何するつもりなの?」この歌詞だけ見ると少し犯罪味を感じるのだが、颯爽とした曲調から昂る恋愛への好奇心と青春特有の新しい世界に踏み出す一歩への期待が感じられる。そして、何と言ってもジャケ写のお尻が美しい。
2017年に発表したこの曲は『Stay Or Run』。
実はOrianaはバイセクシャルであることを公言している。ファンからの質問にそう答えているのだが、何の気なくファンがこの質問を送ったのは『Stay Or Run』のMVを見たからだろう。歌詞の内容からも自由な性的嗜好を持つことを肯定しているように感じる。彼女自身、過去にラジオで性的自由の権利を主張し、人生で最も美しいことは自由に生きることだと発言している。
Dybalaとの出会い
1stシングル『Love Me Down Easy』リリースの年、2017年の6月、Ariana Grandeの世界ツアー”Dangerous Woman Tour”のブエノスアイレス公演で、Orianaは前節を担当することになる。この時『Love Me Down Easy』『What U Gonna Do』『Stay Or Run』を披露した。
この時DybalaはVIP席でツアーを鑑賞していた。公演後にDybalaとOrianaは知り合い、SNSでメッセージのやり取りを始める。OrianaがDybalaをテニス選手だと勘違いしていたり、イタリアとアルゼンチンという距離の障壁もあったりしたが、ロシアW杯後の2018年7月、彼らのSNSで2人の交際が明らかになる。そして、翌年トリノでの同棲生活を始めることとなる。
交際当初、Dybalaが渡したとされる紙切れはあまりにも有名だ。
後にSNSにこの写真を投稿した彼女はこう語る。
南米人なのにマテ茶嫌いなのかと突っ込みたくなるが、下手な先入観は禁物である。我々だって毎日寿司を喰らうわけでも、女体盛りを日常的に行うわけでもない。
Dybalaと交際を始めた頃、Orianaは3trdシングル『False Start』をリリースする。
これまでの楽曲とは一味違う曲調で、歌詞の内容もどこか切なさを感じる。歌詞内の主人公は自分を置いて恋人から逃げられたと感じるのだが、それは早とちりであり誤解なのかもしれないと焦る。しかし、確かに彼が自分から離れて行く実感はある。恋人を無邪気に追いかけていた『What U Gonna Do』とストーリーの繋がりを感じさせるような曲である。そして、MVを見ると分かるのだが、彼女は抜群のスタイルの持ち主だ。私の好みではないのだが、十頭身はあるだろう。アルゼンチンの菜々緒である。
Oriana自身の経験なのか、はたまた別の誰かの経験を歌にしたのか。
楽曲作成の背景は分からないが、彼女の3rdシングルまでの楽曲は少なくとも恋愛を題材にしたものが多い。勿論、そんな彼女も過去に失恋を経験している。
Julian Serrano
Julian Serranoはアルゼンチンの俳優であり歌手。Instagramのフォロワーは311万人(2023年6月27日現在)だ。彼は2014年頃から2017年までOrianaと交際していた。出会いのきっかけは、「Aliados」というアルゼンチンのTV番組だ。この番組はコメディやロマンスを題材としたドラマのようなもので、当時アルゼンチンの若者の間で人気を博した。JulianとOrianaは俳優としてこの番組に出演し、仕事や演技で関わる中でお互いの関係を築いて行ったと考えられる。Orianaがまだ18〜19歳の頃である。
2人の共演シーン。スペイン語は分からないのでどのような会話をしているのか全く理解できないが、2人がキスする直前に父親らしき人物が現れ、焦ったOrianaが「Papa…Ola!..」という台詞だけは唯一スペイン語として理解できた。
番組での共演を通して、交際関係に発展した彼らは2014年に『Love is Louder』という楽曲を作る。
Julianはラップ、Orianaはサビのコーラスを担当するのだが、冒頭のOrianaのコーラスに聴き入っていると、Julianのまだ垢抜けていなそうな声で突然バースが繰り出され、苦笑してしまう。しかしこちらの動画、再生回数が1100万回を超えており、Youtubeのコメント欄は彼らの過去の関係を惜しむ声が多く見受けられる。
2人は他の作品でも共演している。
そのうちの一つが映画『Perdida』である。
邦題は『失われた少女』。学生の頃失踪した少女の行方を、被害者の友人である主人公が数年後に警官となって当時の事件の真相を追究する物語。Julian、Oriana両人とも脇役ではあるが、特にOrianaは作中でも重要な役を担っている。彼女の白身の演技をご覧あれ。一方でJulianに関しては、数ヶ月前にこの映画を見たのだが、彼が出演していたことも、彼の役柄も全く覚えていないし、後に調べても見当がつかない。それくらい出番が少なかったのだろう。
『Perdida』はNetflixで配信されているため、サブスクしている方は是非一度鑑賞することを薦めたい。
この作品は2018年に公開されたのだが、JulianとOrianaは2017年に破局することになった。映画の撮影期間2人の仲睦まじい様子は度々SNSに投稿されていたのだが、結果としてこの作品が彼らの最後の共演となったのである。
Latin Musicへの移行
Orianaの過去の恋愛について触れたが、話をDybalaと交際を初めた頃に戻す。2019年に彼女はトリノに生活の拠点を置くのだが、この時期彼女の音楽活動も、これまでの方向性から新たなジャンルへと移行していく様子が窺える。
2020年COVID-19のパンデミックを受け、彼女も漏れなく活動に支障を来たしたのだが、この年の冬にアルゼンチンのHiphopアーティストRusherkingと『Lo Que Tienes』を発表する。
彼女のシングルに他のアーティストが出演することは初めてだった。特筆すべきは曲の雰囲気が大きく変化している点だ。これまでのAriana GrandeのようなPOPミュージックとはまた違い、POPの中にラテン音楽が混じったトラックで、少なからずRusherkingの影響もあると思うが、確実にこれまでの彼女の音楽との違いが分かる。歌唱言語も英語から彼女自身がネイティブのスペイン語になっている。そして、MVでの彼女の見た目も大きく変わる。Oriana姉御、少々いかつくなった。
3ヶ月後OrianaはFMKと共に『TUYYO』を発表する。
FMKもアルゼンチンのHipHopアーティストであり、RusherkingとはMAWZというアルバムで共演している。やはりラテン調とHipHop要素の強いトラックなのだが、この動画でOrianaはChair Danceを披露している。Chair Danceとは読んで字の如く、椅子を使って踊るのだが、セクシーな振付が特徴で、股を広げたり、尻を揺らしたりと大胆な動きが非常に多い。リリックも男女の濃密な関係を描いたもので、やはりこれまでのOrianaミュージックとは違う。Oriana姉御、結構いかつくなった。
「Contigo baby me gane el balon de oro」。意味は「ベイビー、君と一緒に俺はバロンドールを獲得した」。動画の1:20~、FMKがOrianaに語りかける。Orianaは、いや君じゃ無理でしょと嘲笑うかのように首を傾げる。そう、自分とバロンドールを取れるのは自分の恋人だけなのだ。
回顧と始動
2022年4月、Orianaは『Error』を発表する。
前作『TUYYO』から実に1年ぶりのリリースだった。
動画内で彼女は自身の半生について語る。
Aliados出演、Julianとの別れ、メジャーデビュー、Dybalaとの出会い、2人のミュージシャンとの共演を経て、彼女の中で何かが変わり出した。
前作『TUYYO』の発表からの1年間の活動ついても彼女は語る。
芸能人の両親の元に生まれ、必然的に彼女も同じような道を歩み出した。紆余曲折、別れと出会い、数々の困難を経験し、25歳になったOrianaは何を表現するのか。現在、自分の音楽を彼女なりに見つけ出し、新たな彼女の一面、いやむしろ本当の彼女を我々は見ることができるのかもしれない。
“Oriana”の音楽がようやく始動した。
…。
眉を脱色し、血に染まった、真・Orianaである。
真・Oriana
『Error』をリリースして3週間後、Orianaは『325』を発表する。
なかなか強烈なMVなのだが、曲調はやはりラテン調である。
3:25、恋人から電話がかかってくる。彼が浮気しているのは知っているから出たくはない。自分への愛は信じたくないし、他の誰かに想いが向いているのは明らかなのだ。
身も心も疲弊し、恋人にはうんざりだが、一方でどこか強い何かへの執念を感じさせる女性をMVで表現しているのかもしれない。にしても、如何せんMVの強烈さにただ困惑する。セミヌードは人生初の経験だろう。
2022年の8月、Orianaは『PERRO』を発表する。
この世界に絶望し、ダークサイドに堕ちた彼女はこの世に迎合できない不成者たちを引き連れ、ブエノスアイレスの地下街に新たな国を作った。これぞ真骨頂、Orianaミュージックであると世間に言わしめるような作品である。これまでのファンを蹴落とすかのような斬新な出立と浮世離れした雰囲気のMV。片側車線から爆速で高速道路の出口に向かう軽自動車並みの路線変更ぶりである。ファンからも心配の声は多かったようで、Youtubeのコメント欄でも賛否両論。
ただ歌詞の内容は、「Mas perra que yo no existe en el club(私以上のビッチはクラブに存在しない」などの表現があるものの、一貫して何にも左右されない自分の意志を強固に確立した”強い”女性の姿が描かれており、同時に彼女自身を表現していると見られる。
歌詞、MV、そしてファッション、十分過ぎるほどOrianaの強さを理解できる。Oriana姉御、もはやイカつさの権化である。
4ヶ月後の11月、『CHIN CHIN』を発表する。
ちんちんである。
等々私は彼女の世界観に追いつけなくなった。
ここで記事を放棄するわけにはいかないので私なりの分析努力はする。
勿論”Chin”はスペイン語では「顎」の意味であり、何も卑猥な言葉ではない。「Perrea chin, chin」という歌詞が印象に残る。"Perrea"とは手を前後に押し出すのが特徴のセクシーダンスらしい。確かにMVでも手を素早く押し出す振り付けが見られる。正直歌詞で何を表現したいかは分からなかった。
一方MV、ストーリーが独特で理解が難しかった。
病院に運び込まれてきた女性(Oriana)は、他の患者と同じように薬を飲まされるが、実は飲んでいない。入院した彼女は深夜他の患者と共に踊り狂う。深夜彼女は仲間数人と病院を抜け出し、地下通路を通って、遊技場に辿り着く。そこには高齢の患者数人が集まってトランプに興じている。ある日患者たちは課外活動の一環でアイスクリーム屋に行く。女性は若い男性店員と示し合わせ、アイスに何かの薬を混入させ、院卒の看護師と高齢者の患者を眠らせる。そして、女性は看護師の胸から何かの鍵を取り出し、男性店員と不敵に笑い合う。
実はこのMV、映画『Girl, Interrupted(放題:17歳のカルテ)』のパロディ的なものなのである。MV冒頭で描写される病院の名前は同映画の舞台となるものだ。映画のあらすじを簡単に説明すると、とある精神疾患で精神病院に入院した主人公は、病院で暮らす中で他の患者との親交を深める中で帰属意識が芽生えるが、とある出来事をきっかけに患者仲間と決別し、自分の生きるべき本当の場所は社会だと気づき退院を決意する、といったものだ。
映画と大きく違うのは、入院した女性(Oriana)は最初から退院の意思が強く、最後にアイスクリーム屋で全員を眠らせ、恐らく男性店員と脱出している。この違いを表現した意図までは分からないが、この点はこの点で別の機会に深く掘り下げてみようと思う。
ただ、彼女がメンタルヘルスや摂食障害といった精神疾患に興味を持っていることは過去のインタビューで明らかになっている。物語が精神病院で繰り広げられる『Girl, Interrupted』のパロディをMVにしたのも何か彼女なりに伝えたいメッセージがあるのかもしれない。
舞台はイタリアへ
自分の個性を大胆に表現した2022年のOriana。賛否両論のある音楽を披露してきた彼女だが、それらが自身を存分に表現できたものだったことは間違い無いだろう。2023年、彼女は音楽活動の拠点をイタリアに移すのかもしれない。
5月に彼女はイタリアのHipHopアーティストBoro Boroと『Coco Chanel』を発表した。
イタリアのアーティストとの正式な共演はこれが初めてで、彼女自身イタリアでの音楽活動に意欲的で前向きなことは明らかである。
6月上旬にはローマでこの曲をBoro Boroと共に披露している。勿論Dybalaもライブに来ていた。彼女はこのローマでのライブ後にInstagramでこう綴った。
Dybalaへの想い
6月7日、GazzettaにOrianaに関する記事が掲載された。
Orianaは楽曲を制作するとまずDybalaにアドバイスを貰いたいらしい。
誠実な人柄に惹かれてDybalaに惚れていったことを語るOriana。彼女のこのような発言からも彼の人柄の良さが垣間見える。
2023年6月1日。Europe League決勝、ブダペストでの死闘の後、彼女はInstagramにDybalaの写真を載せ、こう綴った。
Paulo Dybalaの心を奪った女性、Oriana Sabatini。
そして、彼女もまた”La Joya”の虜になった人間の1人なのだ。
Oriana Sabatini
Oriana Sabatini。
我々ロマニスタやカルチョファンは、「Paulo Dybalaの恋人」という認識しか持っていないだろう。「オフシーズンのバカンスでDybalaの隣にいる少しイカつい女」程の印象かもしれない。しかし、我々が持つ彼女へのイメージは時に誤ったものであったり、彼女のほんの一部しか見えていないものであったりする。
夢は世界中で私の歌を聴いてもらえること。
彼女はそう語る。
自分らしい音楽について思い悩み、ようやく彼女自身を精一杯表現できる場所と方法を確立しつつある現在、イタリアでの音楽活動を本格的にスタートしたOrianaは今後どこへ向かうのか。
波瀾万丈、そして天真爛漫な半生。
アーティストOriana Sabatini。彼女は今、輝いている。
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