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NiziUに透けて見える典型的な「日本の伝統的アイドル」構造

女性アイドルユニットNiziUの人気が2020年のデビュー以来、とどまる様子はありません。2021年4月7日にはセカンドシングルが発売されて、各種メディアに引っ張りだこです。

NiziUを「世界を見据えた新時代のガールズグループ」と言われています。

しかし、実際は極めて、「従来の日本的なアイドル」の構図を踏襲していると感じます。

公式サイトでも「日本から世界へ!」と謳ってはいるものの、日本のガラパゴスな音楽マーケットで支持されることを周到に狙っていると思われます。

だからこそ日本のアイドルとして大きな可能性があると言えるでしょう。

と同時に、日本という国の有り様を象徴しているようにも感じるのです。


※注:こちらの文章は、とある目的のために、NiziUのヒット分析をまとめたものです。関係者だけにとどめておくのも勿体ないので、若干の改変を加えて公開してみることにしました。
NiziUが他に類を見ないほど大成功した背景を分析するために記したものなので、ファンの方には快く感じられない箇所もあるかもしれません。
NiziUを批判するために記したものではありませんし、私自身、NiziUの出演するテレビ番組などを楽しく観ている一人です。
執筆当初の目的をご理解のうえ、読んでもらえると幸いです。

■NiziUは「伝統的なアイドルの構図」を踏襲している

今さら必要ないかもしれませんが、NiziUをざっくり解説してみます。

一言で表してしまうと「韓流っぽいけど全員日本人の女性アイドル」です。

ソニーミュージックとJYPエンターテインメントとの共同オーディション「Nizi Project」を通して1万人の中から選抜された9人の女性がメンバーとなっています。その過程は日本テレビ系列の「虹のかけ橋」で放映されて大きな話題となりました。

プレデビュー曲「Make you happy」のMVは2億回を超える視聴を記録して、今もなお伸び続けています。サビの“縄跳びダンス”は大人気となり、YouTubeやTikTokには真似をする動画が溢れています。

デビュー前にこれほどの支持を集めた女性ユニットは日本で類を見ません。
「新時代のガールズグループ」と讃えられるのもさもありなん、です。


NiziUは「ガールズグループ」であって、「アイドル」ではない、という意見もあるかもしれません。

けれども、日本の伝統的なアイドルの構図を明らかに踏襲しています。

一体どこが「従来の日本的なアイドル」の構図なのでしょうか?


■おニャン子やモーニング娘をどう消費してきたか

日本ではこれまで、グループアイドルはどのように消費されてきたのでしょうか。

「三種の矢印」で分析してみましょう。

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・緑の矢印 グループ全体や個々のメンバーの魅力
・青の矢印 グループ内のメンバー同士の人間ドラマ
・赤の矢印 権力者(年上の男性)に気に入られるバトル

大きく分けて、この3方向になるかと思います。


赤の矢印は、他2本の矢印とは明らかに異なる点があります。

主役がグループやメンバーではなく、権力者(年上の男性)なのです。
日本においては、この赤の矢印こそが極めて特徴的です。

社会現象といえるほどの人気を博した歴代のグループアイドル
おニャン子クラブ、モーニング娘。、AKB48 は、
いずれも、秋元康、つんく、という権力者(年上の男性)が個々のメンバーに匹敵するほどの存在感を示しています。

(「社会現象となった女性複数名のアイドル」としてはキャンディーズやピンク・レディーもいますが、「女性グループアイドル」としては紛れもなくおニャン子クラブが一番初めでしょう)

日本のグループアイドルにおいて、赤の矢印がいかに重要かを如実に示しています。


主役級のキャラクターが強烈であればあるほど面白くなるのは、エンタメの鉄則です。

どのメンバーが秋元康氏やつんく氏に気に入られているか、一般視聴者にも明らかです。
秋元康氏にいたっては人気メンバーと結婚しています。


一方で、その評価基準は極めて曖昧です。多少の技術評価はありますが、それだけで判断されることはまずありません。「権力者の好み」としか表現しようがありません。

権力者に気に入られることはファンにとって誇らしいことで、有名プロデューサーのお気に入りになれるかバトルも、ファンがエンタメとして楽しんでいるのです。

(女性アイドルではないですが、ジャニーズJrの好まれ方も踏まえると、より理解しやすいと思います)


■赤の矢印に「参加した気分」を加えたAKB48

2010年代を席巻したアイドルユニット、AKB48において画期的だったのは、赤の矢印に、「自分も参加できる感」を加えたことです。

シングル曲の中心に立てるメンバーを選ぶ「選抜総選挙」です。

SNSが浸透したことでメディアが開放され、スマホでソーシャルゲームが隆盛を極めていく2010年代、ゲーム感覚で自分も「主役」の一員になれた気分を味わえる仕組みは、世の中にドハマリしました。

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これにより、日本の女性グループアイドル史上、類を見ないほどの長期的な大ヒットを生み出しました。

権力者(年上の男性)に気に入られるバトルをいかに面白くするか、エンタメにするか、が日本のグループアイドルでは極めて重要なファクターなのです。


■「権力者(年上の男性)」が時代に適した人物に置き換えられた

このような日本のグループアイドルの歴史の流れに新たに登場したのがNiziUではないでしょうか。

スペックが高い個々のメンバーと並んで、時にはそれ以上に存在感を示しているのがJ.Y. Parkという名物プロデューサーです。

韓国では以前から著名人でTWICEなどのプロデューサーも務める人物ですが、日本ではこれまで一般にはほぼ知られていませんでした。
しかし、オーディション番組「虹の架け橋」では前面に登場し、彼の視点を通してオーディションが進行する演出となっていました。
彼の発言をまとめたサイトなども溢れ、お笑い芸人がこぞってマネするほど、キャラが立っています。

NiziUもおニャン子クラブ、モーニング娘。、AKB48同様、「三種類の矢印」で表すことができます。

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この構図に新しさはありません。

赤の矢印の主役である「権力者(年上の男性)」が今の時代に適した人物に置き換えられただけです。

新時代どころか、1980年代から脈々と続く伝統的な「日本のアイドルユニット」成功の構図そのものなのです。


NiziUは世界展開を目的に結成されたとされていますが、果たしてどこまで本気なのかは疑問です。

J.Y. Park氏が「マツコ会議」(日本テレビ系)に出演した際、「日本の市場に受け入れられるか試してみたかった」という主旨の発言をしていました。

「世界展開」と「日本の市場に受け入れる」は明らかに矛盾しています。
現状、日本で人気があるグループアイドルで、世界進出に成功できていると言えるグループはほとんどいません。

本気で世界を目指しているならば、日本マーケットを第一に考える必要がありません。


『BTSを読む』キム ヨンデ・著, 桑畑 優香・翻訳(柏書房)によると、
J.Y. Park氏は2018年のプレゼンテーション「JYP2.0」で「現地化を通じた世界化」を公言しています。地域に合わせて最適化した形態を取る「モジュール化」を採用しているそうです。

「日本の市場で受けるグループアイドルを作ろう。うまくいけば、海外進出もしてみよう」が「Niziプロジェクト」の真の目的と考えるのが妥当でしょう。


(※注:この分析は、NiziUの卓越したパフォーマンス、メンバーの持つ魅力を否定するものでは全くありません。
上記のような戦略等が十二分に活きる素材や努力があってこその大ブレイクであることは言うまでもないことです)

■NiziUは日本の停滞の縮図かもしれない

2020年にデビューし、新しい時代を象徴するように見えるNiziUですが、80年代以来の日本グループアイドル成功の型をしっかり踏襲しています。

だからこそ、KARAや少女時代、TWICEなど韓流女性アイドルには到達し得なかった規模の人気を獲得する可能性を秘めていると考えられます。

一方で、NiziUの大きな成功は、日本社会が30年以上、いかに変わっていないかを象徴しているとも言えるのかもしれません。

相変わらず、「若い子が、年上の男性権力者にいかに気に入られるかバトル」をエンタメとして楽しめることが求められています。


たかがアイドル、と笑い飛ばせればいいですが、
政治、会社、メディア等々、あちらこちらに似たような構図は見つけられるのではないでしょうか。

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NiziUは、80年代以降の30年間における日本という国の停滞の象徴、
まさに「偶像」=アイドルなのかもしれません。

■NiziUの成功から学べる「昔ながらの型」の活かし方

一方で、「昔ながらの型を活かしつつ、入れるものを現代に合わせて変える」という手法が日本社会の得意技と見ることもできるでしょう。

その手法をうまく活用していくことは、音楽やエンタメビジネス以外にも応用が効きそうです。

重要なのは、
「昔ながらの型」であっても、そこにはめ込むものは「現代のニーズに合った要素」
であるということです。
NiziUの名物プロデューサー、J.Y. Park氏に大いに学びたいところです。

J.Y. Park氏は、秋元康氏やつんく氏にはない、清潔感、誠実さを視聴者に強く感じさせます。それこそが彼の大きな強みになっています。

何かあればすぐに「ブラック」「ハラスメント」と言われてしまう昨今、
「フェアに見える」「共感を生みやすい」といった要素がいかに重要か、彼が体現していると言えるでしょう。


さらに人気を拡大していくことが期待されるNiziU。

「世界を見据えた新時代の象徴」ではなく、
むしろ、日本人が古くから慣れ親しんで来た「伝統的な型」を、今の時代にどう活かしていくか、について学んでいく最適な教材なのかもしれません。

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