漫画が大刷新される2020年代を予測してみる
今、漫画の在り方が大きく変化しつつあります。
1959年に週刊漫画誌が誕生して以来の、大刷新の2020年代になる気配さえも感じられます。
近々、大学生を対象に漫画をテーマに講義をするため、
自分の考察を整理する目的も兼ねて、
・これまでの漫画の王道、スタンダード
・どんな新しい潮流が勃興しているのか
そして、
・これからどのようになっていくと予想されるか
について、記していきたいと思います。
■これまでの王道漫画の在り方
昨今、新しく勃興しつつある動きを正しく把握するためにも、
まずは、これまで王道、スタンダードとされてきた形について、6つの方向性からまとめていきます。
(至るところで語られていることなので、ざっとおさらいする程度にとどめます)
■プラットフォーム
週刊誌で連載後→単行本化し、全国の書店・ネット書店で販売
■フォーマット
・一回の視覚単位(見開き2ページ)をコマで分割し、
より早くページをめくりたくなる構成にする。
・20ページ前後を一話の単位とする。
続き物の場合、次回への興味を高める終わり方をする。
・すばやく物語に没入し、ずっと追い続けたくなるように、
個性的なキャラクターを立てることが重要視される。
深く感情移入できる主役キャラや、強い反感を抱く敵キャラ等を登場させる。
■読者
・『幼稚園』『てれびくん』『小学一年生』『コロコロコミック』『ちゃお』など、幼児や子どもが漫画に触れる機会が多数あり、漫画読解力が自然と身につく。
・国内でヒット → 翻訳して海外へ輸出。
・海外では海賊版で読まれているケースも少なくない。
■作品の作り手
出版社に認められることで作品発表の機会を得ることができる。
読者の支持(主に売上)によって、作品発表の継続が決まる。
■制作体制
・出版社からの発注で、出版社の社員編集者と共に作品を制作する。
・「原作・作画分離方式」作品も多い。
■ビジネスモデル
・雑誌連載時ではなく、単行本で収益を上げる。
・プロモーションとしては、アニメ化やドラマ化、映画化が非常に有効。
駆け足になりましたが、上記のポイントが、これまで王道・スタンダードとされてきた漫画の在り方となります。
澤村 修治・著の『日本マンガ全史: 「鳥獣戯画」から「鬼滅の刃」まで』 (平凡社新書) によると、
・月刊から週刊ペースに移り変わる中で、質と量の両面で限界が来た。
・「才能の分業」をやればいいのではないかという発想が「原作・作画分離方式」を導き出した
という説明があります。
今となってはごく一般的な制作スタイルが、週刊漫画誌の誕生により編み出されたことがよくわかります。
その他、上に挙げた特徴のほぼ全てが、『週刊少年ジャンプ』の漫画に当てはまります。
現在の漫画の王道スタイルは、1959年、『週刊少年サンデー』『週刊少年マガジン』同日創刊から始まったといえるでしょう。
もちろん、上記にはぴったり当てはまらない人気作品、名作も多数あります。
『進撃の巨人』のような月刊誌発のメガヒット作品もありますし、少女漫画の週刊漫画誌は存在しません。
しかし、週刊漫画誌が先導して作り上げた王道の在り方が、月刊誌発の作品にも少女漫画にも大きく影響を及ぼしていることは間違いないでしょう。
■昨今、新たに生まれている漫画の潮流
続いて、昨今、新たに生まれ、年々存在感を強めている漫画の形式も6方向から記していきます。
(こちらも、さまざまなところで論じられていることのため、ざっとまとめます)
■プラットフォーム
・漫画アプリ
・YouTube
・SNS(Twitter、Instagram)
■フォーマット
・Webtoon(縦スクロール漫画)
・漫画動画
・1〜4ページ単位での投稿
■読者
・漫画を読み慣れていない層の増加
・海外でも海賊版でなく、正式版をアプリや電子書籍を通して読む層の増加
■作品の作り手
・イラストレーター、デザイナーなど、漫画家以外の参入。
・出版社、編集者を経ずにクリエイターから直接発信される。
■制作体制
・Webtoon(縦スクロール漫画)のチーム制作
・漫画動画を制作するベンチャー企業の増加
・鉛筆書きのまま、など、漫画制作では正しい手法とされてこなかった制作スタイル
■ビジネスモデル
・アプリ内課金
・YouTube広告
・D2C
・収益目的ではない発信
日進月歩の状態ですから、挙げきれていないタイプも多々あると思いますが、近年特に目立っている作品には上記のような傾向が見受けられます。
2021年現在、「これまでの王道漫画の在り方」も相変わらず強いですが、
新しい形が着実に市場を広げていることも間違いないでしょう。
■2020年代の漫画に、どんな変化が起こるのか
「これまでの王道漫画の在り方」と「昨今、新たに勃興している形」を、一気にまとめた上で、いよいよ、
果たして、2020年代の漫画に、どんな変化が起こっていくのか
を見通していきたいと思います。
●全く新しい作り手の誕生
上記の通り、これまでの王道・スタンダードは、1959年に誕生した週刊漫画誌が作ってきました。
まるで揺るぎないもののように見えますが、せいぜい60年程度の歴史に過ぎないのです。
しかも、フォーマットの多くは「出版流通の都合」で規定されていたものです。
単行本は少なくとも100ページ以上で、500〜1,000円を出す価値があると思ってもらえるものでなくてはならない。
そのためには、せめて16ページくらいは構成できる能力を持っていてほしい。
その前提で新人公募は作られています。
あえて小難しく説明すると、
一定の才能を持ち、訓練を経て、
資本家に受け入れられた
特権者のみが発信する権利を与えられる
という仕組みです。
昨今、他分野で起きている変化を見れば、この仕組みが長くは続かないのは明らかでしょう。
もちろん、全く無くなるとは思っていません。
ただ、「この仕組み以外にはルートはほぼ無かった」という状態は、笑い話になる日は決して遠くない(既になってる?)と思います。
●漫画読者層が拡大する
漫画に読解力が必要とは思えないほど、日本では漫画を読めることが一般的です。
けれども、複雑に分かれたコマ割から時間の流れを読み取り、記号的な表現を正しく読み解くのは、それなりの訓練が必要な能力なのです。
※このことは、『障害のある人たちに向けた LLマンガへの招待 はたして「マンガはわかりやすい」のか』
吉村 和真 (著, 編集), 藤澤 和子 (著, 編集), 都留 泰作 (著, 編集)
で非常によくわかります。
「新たに勃興している形」で挙げたものは、そのような漫画読解力をあまり必要としないものが多いといえます。
よって、これまでとは違う、より広い層が、漫画読者となっていく可能性があります。
●世界規模での展開
上記の読者層の拡大は、日本国内よりもむしろ、海外で著しいと予想されます。
これまで、「クールジャパンとか言ってるけど、国内で言われているほど、海外では日本のコンテンツは親しまれていない」と感じることがほとんどでした。
しかし、
プラットフォーム(デジタル、ウェブ)
フォーマット(読解力があまり必要とされない)
2つの変化が揃った2020年代、
いよいよ、日本のコンテンツが世界的に広がっていく可能性は十分あると考えています。
(コンテンツは広がったけど、利益はアメリカ、中国、韓国などが奪っていく、という構図もまた十分あると考えていますが)
●「漫画」体験が根底から覆る
私が一番楽しみにしているところは、この点です。
上記で記した新たな形も、所詮は、本で展開されていた漫画をベースに、時代やテクノロジーに合わせて改変した、
というレベルに過ぎません。
二次元の世界に閉じ込められた状態であることに変わりはありません。
漫画にはもっと大きな可能性がある。
そう思うからこそ、漫画家・西原理恵子さんの世界観を
新宿歌舞伎町の居酒屋で一ヶ月間に渡って展開する
「サイバラ酒場」なんて大変な企画をやったりしていたのです。
そのあたりの想い、考察を記していると、とんでもない分量になりそうなので、また別の機会にしておきます。
まだまだ他にも、2020年代に起こりうる変化はたくさんあると考えていますし、もっともっと壮大なことを語ってみたい思いもあります。
なにはともあれ、
2020年、2021年、1年半の間だけ見ても、漫画は実に面白い方向に変化・発展しています。
のちのち、「2020年代が漫画の激変期だった」と語られる日が来ると、私は確信しています。
その激動の中で、より大きな面白いことができるよう、日々精進していきたいと思います!
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