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夢と魔法の王国のイケオジ

テーマ:イカしてると思った店員さん

「店員さん」と言ってしまうと語弊がある気がしなくもないが、夢と魔法の王国のキャストに関しては、ホスピタリティにあふれた、イカした逸話に事欠かないように思う。

私が過去に「イカしてると思った店員さん」もまた、夢と魔法の王国のキャストだった。

以前、3歳になる姪の誕生日祝いに、母や私も交えて大人数でディズニーランドへ遊びに行った。

途中、休憩しようと入ったのは、スプラッシュマウンテンを望むグランマ・サラのキッチン。クリッターカントリーで1番料理上手なジャコウネズミが腕をふるうレストランだ。

大人たち(8割女性)がお喋りに興じる横で、ふと思い立った私は、退屈そうにあくびをしている姪を手招きしてささやいた。

「見てごらん、あそこにネズミさんのおうちがあるよ」

たくさんの小動物たちが暮らす店内には、可愛らしい小さな扉があちらこちらにある。私は姪を抱き上げて、木の幹にある扉をノックしてみせた。

「残念。もうお外は暗いから、ネズミさんは寝てるみたい」
「みんな寝てるの?」
「うーん、起きてるネズミさんもいるかもね?」

言ってから、しまったと思った。姪の目が輝いた。

「あっちのおうちもトントンする!」

そう、私は無邪気な幼女を抱きかかえ、動物たちの家々の扉をノックして回る羽目になったのだ。

子供の探究心なめてた。次々と目ざとく扉を発見しては、自分でノックするんだと言って抱っこをせがまれる。途中、家族のいるテーブルの横も通ったが「あらあらいいわねー」で流された。

いい加減、肩が抜けると思いながら徘徊していると、前方からやってきた紳士なキャストに声をかけられた。

「何かお探しでしょうか?」

隙のないスーツの着こなし、上品な身のこなし、整えられた髪に柔和な微笑み。なにこのナイスミドル。もしや幼女誘拐犯とでも思われたか。

姪が怯えていないことをアピールしつつ「『』がまだ起きてるネズミさんを探しているんです」と返すと、銀髪の紳士は「ふむ」と頷き、優雅な動作で床に点々と続く小さな足跡を示した。

そして、まるで魔法使いのように「全部のお家は見つかりましたかな?この足跡をたどっていくとよいでしょう」と言ったのだ。

姪の双眸に炎が灯った。

「あ、ありがとうございます(おのれなんということしてくれた)」

優雅に一礼する紳士に、姪に引っ張られながら頭を下げたあと、今度は俯きながらさらに2周ほど店内を巡回した気がする。

結果的に起きてるネズミさんには会えなかったわけだが、姪はたいそう満足したようだった。

そういう場所とはいえ、夢を追う幼女に対し、さも当たり前のように行く先を示した魔法使いめいた紳士。あのイケオジキャストは、たしかに夢と魔法の物語のページをめくってくれたのだ。

願わくは、私は現実世界でそんな大人でありたい。子供は苦手だけど、からかうのは好きだ。じゃなくて、子供の世界をそのままに肯定して、思い切り没入してほしいと思う。

いつかは記憶の彼方に消えるとしても、子供のころの夢も空想も、人を形作る一片として、必ずどこかに残っているはずなのだから。

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