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文字を持たなかった昭和 鹿児島のお菓子(かからん団子)後編

前編より続く)
 鹿児島の庶民のお菓子「かからん団子」について述べている。庶民の、と言っても作るのに手間がかかり、日常的に登場する食べものではなかった。

 わたしの記憶と近隣の習慣では、日本の他地域の柏餅のように、端午の節句に作っていただくものだった。手作りできるとは言え特別なお菓子だったのだ。それに、端午の節句にはどの家でも作っていた、という記憶がない。母親のミヨ子さんにも、作ってもらった(あるいは一緒に作った)ことは数えるくらいしかないと思う。

 おそらく、鹿児島で以前は旧暦で祝っていた端午の節句には、「あく巻き」と呼ばれる粽(ちまき)を作る習慣のほうがより一般的だったためではないだろうか。前にnoteであく巻きの作り方について述べたように、あく巻きも作るのに手間と時間がかかる食べ物だ。もち米を水に浸すところから考えると二日がかりの仕事だ。〈242〉

 それに、灰汁(あく)に浸けたもち米で作るあく巻きは保存がきく。もち米を包んだ竹皮に多少カビが生えても、皮を剥けば食べられる。一方「かからん団子」はそうはいかない。生地自体に砂糖が入っていることもあり、カビが生えるのも早いだろう(「だろう」と推測なのは、カビが生えるほど長期間保存したことがないのと、何日も食べるほどの量を作ったことがなかったからだ)。

 かくして、鹿児島の端午の節句のお菓子としては、あく巻きだけが代表的なものとして残った――のではないか、と推察する。

 「かからん団子」とあく巻き。もし両方が並んでいるとすれば、「かからん団子」のほうをわたしは選ぶと思う。ひとつは食べやすいからだ。もう一点は希少価値というか、めったにお目にかかれないから。今でこそ道の駅や、物産館、お土産物屋さんでよく見かけるが、あく巻きよりも目を引かれる。

 と言っても、「かからん団子」は一口食べて「おいしい!」というほどではない。その出自(?)が語るように、家庭で手作りしていた文字通りの団子、素朴なお菓子である。作り方もそうそう変えようがないだろうし、小ぶりにしたりとどう工夫しても限界がある。しかしその辺も鹿児島(のお菓子)らしいと言えば、らしい。

 ――などなどを、久しぶりに買い求めた「かからん団子」を前に考えた。どこかの山の中から「かからん葉」を採ってきて、昔のままに作ってくれている小さなお菓子屋さんや、自宅で作って道の駅などに売りに行くお母さんたちがいまでもいることに感謝しつつ、鹿児島の緑茶とともにいただいたのだった。

 (と、締めくくりたかったが、あいにく鹿児島茶を切らしており静岡茶でいただきました)

〈242〉あく巻きやあく巻き作りについては、「九十四(「あく巻き」――月遅れの端午の節句、その一)」「九十五(同、その二)」「九十六(同、その三)」で述べた。

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