まんしゅう家の憂鬱

 笑える。笑えるけれど、なんだ、この不穏な空気は。
 この本に登場するのは、まんしゅう家の人々すなわち作者の家族と、元彼たち、さらにキャバクラを通して知り合った友人などだが、半分ぐらい危ない人が混じっている。元彼たちはだいたい変だし、父親もちょっとおかしいし、何より作者自身が一番危ない。
 たとえば、頭のおかしな人のふりをするのが気持ちいい、というのは、この手の漫画によくある自虐ネタのひとつだが、ふつうは作者のポーズに過ぎない。けれどこの作者は、変と言われたくてそうするのでなく、楽になりたい一心でそうするのだ。家族に医者に連れていかれそうになるまで延々と。
 他人ごとだから笑えるものの、本人は、笑いどころではなかったはずで、おかげで他人の私にはおおいに笑えた。

 だいたいこの作者は、ペンネームもどうかしている。
 まんしゅうきつこ。
 エロ方面で言いたいこと言いまくるぞ、という体のネーミングだが、これもどう見ても確信犯ではない。途中で微妙に改名してるところをみると、勢いでつけてしまったぽい。そもそも前作『アル中ワンダーランド』と読み比べると、主人公キャラ(本人)の外見が全然変わってしまっている。
 ちゃんと考えて描いてるのか。
 いや、本人はちゃんと考えているのだ。どころか、考えすぎるぐらい考えた挙句の果てに、タガが外れて、過激かつ、なげやりになっていくのが、まんしゅうきつこの天才というか天分というか痛さであり面白さである。
 自暴自棄という言葉が、これほど似合う作家もいない。
 同じような生きづらさを抱えている人にとっては、きっとこの本は救いになるだろう。抱えていない人にとっては、遠巻きにしつつも目が離せない本である。

「まんしゅう家の憂鬱」まんしゅうきつこ著 「青春と読書」2015.12

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