見出し画像

総統閣下と連携しようとしたシオニストたち -ナショナリズムを共通項に似通うナチズムとシオニズム

 パレスチナのアラブ人たちの完全な排除や殺害を考えるイスラエルの極右の主張は、ユダヤ人の絶滅を考えたナチズムのイデオロギーと似通っている。本質的にはナチズムと、イスラエル建国のイデオロギーであるシオニズムは、ナショナリズムを共通項にするために、同じ発想に立つのだから当然とも言える。

 手塚治虫の「アドルフに告ぐ」はヒトラーにユダヤ人の血が流れているという機密文書をめぐるストーリー展開だった。この説にはイスラエルは即座に反発するようだ。一昨年5月、ロシアのラヴロフ外相がヒトラーにユダヤ人の血が流れていると発言すると、イスラエル政府関係者からは許しがたいなどの反発の声がいっせいに上がった。

ヒトラーにユダヤ人の血が流れている https://tezukaosamu.net/jp/manga/14.html


 イスラエルのヤイル・ラピド外相は、「ラヴロフ外相の発言は許しがたい暴言であると同時に、恐ろしい歴史誤認でもある。ユダヤ人はホロコーストで自らを殺害してなどいない。」と発言した。しかし、ホロコーストでユダヤ人を殺害したナチスと協力しようとしたユダヤ人たちがいたことは事実だ。

 2023年5月に公開されたイスラエル国立公文書館の資料によって、シオニストの民兵組織がイギリスの委任統治当局と戦うために、ナチス・ドイツと同盟しようとしていたことが明らかになった。この歴史的事実をイスラエルのリベラル系「ハアレツ」紙は、シオニスト民兵組織のナチスとの「暗黒の章」と形容した。いうまでもなく、ナチス・ドイツは第二次世界大戦中に600万人のユダヤ人を虐殺するというホロコーストを行った当事者である。

「シオニストたちがパレスチナ・アラブ人たちに対して、ナチス・ドイツがユダヤ人に対して行ったと同様なことをしているのを見るのは大変悲しい」ーアインシュタイン https://quotesgram.com/einstein-quotes-about-israel/


 公文書館が明らかにしたのは、1942年の修正シオニズム(ネタニヤフ首相らがもつパレスチナ全域はすべてユダヤ人の土地というイデオロギー)の地下軍事組織「レヒ」のメンバーだったエフレイム・ゼトラーに対するハガーナ(同様にシオニストの軍事組織)の兵士たちによる尋問記録だ。この記録によれば、ゼトラーは「イスラエル王国創設を支援するならば、ドイツと協力する用意があると述べている。この時期、シオニストの武装組織の最大の敵はイギリスであり、ロンドンにテロリストの細胞を送ろうとしていた。イギリスのクレメント・アトリー首相はシオニストのテロリストの暗殺の標的だった。

オーストラリア・シドニーで https://www.timesofisrael.com/anti-israel-protesters-in-sydney-depict-netanyahu-as-hitler/


 「ハアレツ」紙によれば、ゼトラーの尋問はユダヤ人に対する「最終的解決=絶滅」を決定したナチス・ドイツのヴァンゼー会議の2週間後に行われている。レヒはユダヤ人絶滅をすでに考えていたドイツ側に立って参戦する用意があることを明らかにし、その国家観はナチス・ドイツと同様に全体主義による統治だった。「ハアレツ」は、シオニストがナチス・ドイツと連携しようとしていたのは理解不能であり、イスラエルの恥ずべき歴史だと述べている。

 レヒはイギリスから「シュテルン・ギャング」と呼ばれていたが、パレスチナのイギリス委任統治当局に対するテロ活動をひたすら追求し、イギリスよりもナチス・ドイツに親近感をもち、ナチスにユダヤ人のパレスチナへの移住を促すよう働きかけを行っていた。創設者のアブラハム・シュテルン(1907~42年)は、ユダヤ人至上の世界観をもつ民族主義的、また自らの考えを絶対とする全体主義的原理でパレスチナにユダヤ人国家を創設することを考えていた。このメンタリティーはナチスドイツのそれとまったく重なる。

アブラハム・シュテルン http://www.zionistarchives.org.il/en/AttheCZA/Pages/Stern.aspx


 イギリスから「テロリスト」と見られていたシュテルンはイギリス警察によって1942年2月、隠れ家に潜んでいるところを見つかり、射殺されたが、イスラエルではシュテルンの記念日が設けられ、また1978年には彼の肖像画の切手も発行されるなど国民的な英雄とされている。

 現在のイスラエルはシュテルン・ギャングのような極右勢力が内閣を構成し、パレスチナ人・アラブ人をパレスチナから追放する民族浄化の考えをもっている。その点ではナチス・ドイツがヨーロッパからユダヤ人を追放しようとしたことと本質的には何ら相違がない。ナチス・ドイツはヨーロッパにユダヤ人がいない状態を「人種的健全」と考えたが、イスラエルの極右もエレツ・イスラエル(現在のイスラエルにヨルダン川西岸を加えた地域)にパレスチナ人がいない状態をつくり出すことを考えている。戦後の国際社会は民族浄化や大量虐殺、軍事的拡張を行ったナチス的なものを乗り越えることを目指してきたが、ナチスのイデオロギーは、ナチスの被害を最も被ったユダヤ人たちの国イスラエルで脈々と生きている。

手塚治虫「アドルフに告ぐ」より


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?