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「大谷翔平の日」と、米国のパレスチナ政策に矛盾を感ずるアジア系の人々

 17日、ロサンゼルス市は、5月17日を「大谷翔平の日」に制定した。制定の理由は大谷選手の野球選手としての実績を称え、日系住民として重要な影響をロサンゼルス社会に与えたことなどを考慮したものだ。5月は米国ではアジア系の人々の功績を称える月間となっている。

大谷13号 “自分の日”制定→即日ホームランで衝撃 https://the-ans.jp/news/420073/


 太平洋戦争中、日系人は様々な差別を受けた。ロサンゼルスの大学にいた時、ギリシア系の教授が太平洋戦争の始まる頃、ロサンゼルスで最も成功したコミュニティは日系人たちだったと教えてくれたことがあった。勤勉な日系社会は商業や農業などの分野で成功を収めていたが、真珠湾攻撃があると、財産は没収され、強制収容所に送られることになった。

カリフォルニア州マンザナー強制収容所での砂嵐 (写真:ドロシア・ラング、アメリカ国立公文書記録管理局) https://discovernikkei.org/ja/journal/2015/4/13/obaasan-no-tegami-12/


 歌手のピート・シーガーの奥さんのトシさんは、父親は日本人、母親は米国人という家庭環境だったが、日系人に対する理解があったためにシーガーには日系人に対する戦時中の米国政府の措置が容認できなかった。

 シーガーは、カリフォルニアの在郷軍人会に書簡を送り、在郷軍人会が12万人の日系人を強制収容に収容することや、日系人から市民権を奪うことに賛成した姿勢に衝撃を受け、怒ったと書いている。米国はヒトラーのような狭量な自民族優先主義と闘っているのであり、日系人を敵としているのではない。日本人を強制収容するならば、なぜドイツ人、イタリア人、ルーマニア人、ハンガリー人、ブルガリア人たちに対しても同様な措置をとらないのかと訴えた。また、日本人から市民権を奪うなら同様に米国がかつて戦ったイギリス人からも市民権を奪わなければ道理が通らないとシーガーは主張した。彼は、米国が国力をつけたのは、抑圧された人々に避難の場所を提供したからではないかと考え、日系人に対する政府の措置は米国を弱体化するものだと訴えた。

ピート・シーガーとトシ夫妻 https://seegerfest.wordpress.com/d4_toshi_peter_banjo/



 第二次世界大戦後に米国に移住してきたアジア系の人々には、母国が植民地主義支配を受け、あるいは母国の戦争で大量虐殺があった国の出身者が少なからずいる。そのために、パレスチナに対する植民地支配を行うイスラエルを米国政府が支援することに矛盾を感じている。

 ロサンゼルスの南アジア系住民の団体「南アジア・ネットワーク」は、昨年10月にパレスチナ人を支持する声明を発表し、それ以来、ガザ攻撃に反対するいくつかの集会やデモに参加している。アジア・太平洋諸島系米国人(AAPI:Asian Americans and Pacific Islanders)は2月にAP通信などが行った世論調査で、その49%の人々が、米国がパレスチナに対して十分な支援をしていないと回答し、これは米国全体を対象とした調査で見られた36%よりも大幅に多かった。

アジア系アメリカ人はパレスチナ人とともにある https://www.instagram.com/activistnyc/p/C0DPeV1OadK/?img_index=1


 米国の大学生など若い世代がパレスチナ問題での矛盾を強く感じるようになったのと同様に、若い日系アメリカ人の間でもイスラエルに対する強い姿勢をとることを求める傾向が現れている。日系人の中でパレスチナとの連帯を図る組織「Nikkei4Palestine」(パレスチナのための日系人)は日系最大の組織「the Japanese American Citizens League」(1929年創設)に対してガザでの即時停戦を求めるよう要望し、「シオニスト」と形容されるユダヤ人の組織と関係を断つことを要求している。

 アジア系の学生が多いUCLA(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)の教職員800人は、5月9日にデモを行い、パレスチナと連帯する学生たちのキャンプを警察や暴力的グループに排除させた学長の辞任を要求し、大学の軍需産業からの投資撤退、またUCLAの投資に関するあらゆる資料の開示を求めた。
(その様子は  https://www.youtube.com/watch?v=pD5npMjpnPA

 にある)

 不当な人種的扱いを受け、アジアや太平洋島嶼地帯で植民地支配を受けたアジア系の人々が少なからず暮らすロサンゼルスでは、イスラエルによるパレスチナ人への人種差別やアパルトヘイト、イスラエルの武力による植民地支配に反発する背景が自ずと備わっている。「大谷翔平の日」もアジア系の人々のステータスをロサンゼルス社会、あるいは米国社会全体で上げる一つのステップ、チャンスに確実になると思う。

アメリカの汚名 https://www.hakusuisha.co.jp/book/b324498.html


表紙の画像は米ロサンゼルス市「大谷翔平の日」制定、背番号にちなんだ「5月17日」
https://www.yomiuri.co.jp/sports/mlb/20240518-OYT1T50045/

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