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ビリー・ホリデイの「奇妙な果実」とパレスチナ人への「人種差別」

 ジャズ・ボーカリストのビリー・ホリデイ(1915~59年)が1939年にレコーディングし、ミリオンセラーとなった有名な「奇妙な果実(Strange Fruit)」は、ユダヤ系アメリカ人のエイベル・ミーアポル(1903~86年)が1937年に書いた詩をもとに曲が作られたものだ。アメリカの残忍な人種差別の情景が描かれていて、南部ののどかな情景と白人たちのリンチによって樹に吊るされた黒人の遺体を対比させるような内容となっている。

アマゾンより


 ビリー・ホリデイの歌は差別される黒人の哀切な情感が込められているが、ホリデイはこの歌を歌唱すると逮捕されるとFBIに脅されながらも歌い続けた。このホリデイとFBIとの闘いは2021年に公開された「ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ(リー・ダニエルズ監督、原題:The United States vs. Billie Holiday」でも描かれていて、ホリデイこの歌を歌うには相当の覚悟が必要だったようだ。「タイム」誌は1999年12月31日、つまり20世紀最後の日に、「奇妙な果実」を「20世紀最高の歌」に選んでいる。

ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ https://eiga.com/movie/94735/


 ミーアポルは、1930年8月7日にインディアナ州でリンチになって木に吊るされた黒人のトーマス・シップとアブラム・スミスの写真からモチーフを得て「奇妙な果実」の詩を書いた。ニューヨーク・ブロンクスで英語を教え、人種差別撤廃を唱えたジェームズ・ボールドウィン(1924~87年)の作品を数多く紹介した。

南部の木は、奇妙な実を付ける
葉は血を流れ、根には血が滴る
黒い体は南部の風に揺れる
奇妙な果実がポプラの木々に垂れている(後略)
Strange Fruit
Southern trees bear strange fruit,
Blood on the leaves and blood at the root,
Black bodies swinging in the southern breeze,
Strange fruit hanging from the poplar trees.
 歌詞と訳詞全体は 

https://note.com/artoday/n/ncc45fdbcd584

 にあり、またホリデイの歌の動画は https://www.youtube.com/watch?v=U-6dLYx66d8

 などにあるが、イギリスの人権活動家のトニー・ノーフィールドは2019年4月に自身のブログにビリー・ホリデイの歌をモデルに「パレスチナの奇妙な果実」という詩を書いて載せている。

パレスチナの樹には果実がならない
枝は裂かれ、根こそぎ伐採される
イスラエルによって土地と生活は奪われ
オリーブの木には実が垂れない
Palestine’s trees bear little fruit
Torn down branches and cut at the root
Land and lives stolen, by Israelis seized
No fruit hanging from the olive trees

https://economicsofimperialism.blogspot.com/2019/04/strange-fruit-in-palestine.html?m=1&fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTAAAR0r5F0uFvcAZrl0Vumwkxn3zG-MdPT4AbUxtiL7hSiZmq7nhg2oU8Y_E9g_aem_AdPSZia_8scryjnLs9KbeJTgLCJGwp8FoZPa8DiQnvcqLVfz6ctOe-qReH65gpLZASaKRyTck9MGh7UTn2wZv5UL

 
 ガザでは昨年10月7日以来の死者がついに3万5000人を超えた。ガザ住民の命が軽いのはまるでミーアポルが描いたかつてのアメリカ南部のリンチ社会と同様だ。ガザで行われていることはかつての南アフリカの「アパルトヘイト」のように、パレスチナ人の人権を著しく軽視するものだ。5月10日、イスラエル軍がガザ最南端の都市ラファに侵攻すると、南アフリカは国際司法裁判所にガザ地区のパレスチナ人の「生存そのもの」が脅かされているとして、イスラエルに制裁を下すように求めた。南アフリカは裁判所に対し、100万人以上のパレスチナ人が避難を余儀なくされているガザ・ラファから直ちに撤退し、軍事攻撃を停止し、国際機関関係者たちのガザへの「妨げられないアクセス」を認めることを命じるよう求めた。

 ミーアポルが敬愛したジェームズ・ボールドウィンは、ヨーロッパ白人世界の贖罪の意味でその創設が認められたイスラエルは、アラブ人たちに自らと同等の権利をもたせない、受け入れがたい国家だと訴えた。傲慢にも「中東」などという言葉をつくり出したヨーロッパが公平にパレスチナ人を扱わない限りこの地域には平和がやって来ないとボールドウィンは確信していた。「中東(Middle East)」という名称はヨーロッパから見て「中間の東」という意味であり、ヨーロッパ中心の世界観が表れている。

『ジェイムズ・ボールドウィンのアメリカ』 https://book.asahi.com/jinbun/article/15010501


 抑圧されたアフリカ系アメリカ人(黒人)の権利拡大を訴えたボールドウィンには、同様に権利を剥奪されたパレスチナ人たちに対する共感や同情が自ずと備わることになったが、アメリカでの人種差別が、イスラエルによってアパルトヘイト状態に置かれるパレスチナ人たちの境遇と本質的に変わらぬものであることをボールドウィンは主張した。

「しかし、イスラエル国家はユダヤ人救済のために創られたものではない。欧米の利益の救済のためだ。それはまったく自明なことだ。パレスチナ人たちはイギリスの「分割支配」と有罪なキリスト教の良心の犠牲に30年以上もなっている。」―ジェームズ・ボールドウィン https://www.linkedin.com/posts/imanbukhari_in-1979-james-baldwin-penned-his-most-notable-activity-7124485044743671808-NUaA


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