見出し画像

【連載企画】末路を活路へ~空き家対策の今

 改正空き家特別措置法は年内に施行され、来年4月には不動産の相続登記の義務化を控える。地域の景観や治安を悪化させる空き家の増加を抑制するために、所有者がすべきことは-。県内の動きを探った。


1.相続

老朽化進み 災害時不安

 7月下旬、那須英二さん(66)=相模原市=は古里の椎葉村下福良に帰省した。1月に村に住んでいた母を89歳で亡くし、母名義の実家の建物と土地、山林の相続手続きを済ませたばかり。初盆を前に、庭の草刈りや両親が残した家財道具の整理に追われていた。
 両親が住んでいた家は築40年以上が経過。現在は兄(69)が1人で住んでいるが、「兄も若くはない。手入れをしなければ、今後どんどん傷んでしまう」。1997年ごろまで民宿を兼ねていた建物の内部には、調理室や客室などが廃業した当時のまま残る。兄だけでは管理が間に合わず、外側は壁材が所々はげ落ち、基礎部分のコンクリートにもひびが目立つ。
 夜になるとシカが現れるという庭や畑は、キンモクセイなどの庭木や雑草が伸び放題となっていた。裏庭のすぐ下には耳川の支流がある。那須さんは「台風や大雨の被害を受けることも考えられ、何か起きてからでは遅い。責任の所在を明確にさせるために、早く継いでおく必要があった」と語る。
 相続を意識するきっかけになったのは、母が亡くなる約1年前に施設に移ったことだった。インターネットなどで必要な書類や資料の下調べを始めた。

外壁が朽ちるなど老朽化が目立つ那須英二さんの実家。
「手遅れになる前に」と相続を決め、家財整理や補修の
ため定期的に帰省する予定という=7月、椎葉村下福良

家族巻き込みたくない

 今年1月に母が亡くなり、椎葉村下福良の実家相続を決めた那須英二さん(66)=相模原市=は仕事を辞め、神奈川と椎葉を行き来しながら、県司法書士会が村内で開いた相談会にも出席し司法書士にアドバイスを仰いだ。「(所有していることを)初めて知る山林もあった」といい、村役場などから拡大地図や航空写真の資料を独自に取り寄せ、土地の境界線を細かく調べた。
 駆け足で進めた手続きは5月に完了した。那須さんは「急がなくてもすぐに影響が出ることはないと思う。ただ、家族や親族、地域の人たちを将来、面倒なことに巻き込むことはしたくなかった」と振り返る。

約25年前まで民宿を営んでいた那須英二さんの実家。
那須さんは炎天下、庭の草刈りや片付けに追われていた
=7月、椎葉村下福良               

登記義務化前に手続き急ぐ

 民法などの改正に伴い、任意だった不動産の相続登記が来年4月から義務化される。土地や建物の相続を知った日から3年以内の登記申請が必要で、正当な理由なく登記しない場合は過料が科される可能性もある。
 法改正の背景にあるのは、所有者不明で放置される土地や空き家の増加だ。不動産を売却する場合は、法定相続人の同意が必要となる。しかし、不動産の名義を故人のままにしておくと、子や孫などが法定相続人となり、その数は時間の経過とともに膨れ上がる。
 県司法書士会の石村真企画部長は「昔は長男が地元に残り、実家を継ぐ文化が根強かった」とし、その慣習の変化が問題の一因だと指摘。その上で「全国に散らばる法定相続人を探し出し、全員から同意を得るのは困難を極め、手続きを諦める人も多い」。
 国が5年ごとに実施する統計調査で、2018年の県内の空き家は前回より約1万戸増の約8万4千戸、住宅総数に占める割合は1・4ポイント高い15・3%となり、いずれも過去最高だった。
 少子高齢化や県外への人口流出は進行し続け、空き家の抑制は今後、さらに難しくなる。石村部長は「対応が遅れるほど、事態は深刻化する。問題を未然に防ぐためにも『今のうちに動く』という意識を持ってほしい。子や孫に責任を押し付けてはいけない」と理解を求める。


ここから先は

3,840字 / 4画像

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?