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【連載企画】どうなる新幹線 本県隣県の現状

新幹線整備の機運を高めるため、県は本年度、本県を通る3ルート案の整備費用や需要予測などの調査に乗り出す。半世紀もの間、止まったままの基本計画は動き出すのか。本県とともに隣県の熊本、鹿児島、大分の現状や展望を探った。

※このコンテンツは2024年4月1日~4月8日付まで宮崎日日新聞社本紙1面掲載されたものです。登場される方の職業・年齢等は掲載当時のものです。ご了承ください。


1. 熊本

まずは肥薩線復旧

■県南部 経済効果期待も
 お土産やキャリーケースを手にしたビジネスマンや観光客が行き交う九州新幹線のJR新八代駅(熊本県八代市)。全線が開業した2011年から、JR宮崎駅との間に新幹線に乗り継ぎできる高速バス「B&Sみやざき」が運行している。B&Sを利用し、福岡から宮崎に向かうという会社員の岩元祐樹さん(37)は「新幹線の通っていない宮崎は遠く感じる」と苦笑いする。
 本県の新幹線整備を促すため、県が本年度に調査を始める3ルート。「新八代ルート」も含まれている。同ルートについて八代市企画政策課の松本亨課長補佐は「B&Sの利用状況は好調で、ニーズはある」とみる。「高速道のインターチェンジがあり、国際クルーズ船の拠点でもある八代は交通の結節点。新たな新幹線ルートが実現すればさらにそれが高まる」と期待を寄せる。

九州新幹線が停車するJR新八代駅。宮崎間を結ぶ
ルートにも期待がかかる=熊本県八代市     

 しかし、熊本県側には大きな課題が横たわる。20年7月の豪雨災害で熊本、宮崎、鹿児島の3県を通るJR肥薩線は橋桁が流された。路線の7割に当たる八代―吉松(鹿児島)間の86・8キロは不通のままだ。
 沿線である人吉・球磨地域は新八代ルートの有力な沿線候補地の一つ。まずは肥薩線の早期復旧を望む声が強い。「新幹線はありがたいが、肥薩線の代わりにはならない」。元国鉄機関士で人吉鉄道観光案内人会の立山勝徳会長は話す。
 明治時代以降、球磨川沿いを走る肥薩線の八代―人吉間は川線と呼ばれ、観光路線としても親しまれてきた。「肥薩線は長年地域を支えてきた。市民からすれば心の古里」。人吉市復興支援課の竹内常泰課長は市民の気持ちを代弁する。「新幹線は夢のある話だが地元としてはまずは肥薩線の復旧に全力を傾けたい」

 一方で南部地域の経済浮揚の起爆剤として新幹線に期待する向きもある。半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の工場進出など「半導体バブル」に沸くのは熊本県北部にとどまり、経済効果を享受できない八代や人吉市など南部との「南北格差」が広がりつつある。
 地方経済総合研究所(熊本市)によると、九州新幹線の全線開業後、関西、中国地方からの流入が増え、19年までの10年間で熊本市への宿泊客数は35%増の72万人に増加するなど新幹線効果は証明済みだ。
 大久保裕真研究員は「熊本県では県南部の人口減少が激しい。新幹線が通れば地域活性化につながる。新八代にルートを通すとなれば是が否でもとなるのではないか」との見方を示す。

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