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ジブリ映画「君たちはどう生きるか」 感想

The Boy and the Heron:


(ネタバレ含む)

 ロンドンは今夜ストーム、イーシャの影響で強風の強風。(現在風速40km/hのようだが、建物のやや上の方にいるので体感はさらに増している)住まいがミシミシ言っていて怖い。

「君たちはどう生きるか」をロンドンでシーズン終わりギリギリの今、鑑賞。事前に内容が漠然としているという口コミを聞いていたので鑑賞中に頭使うように、心構えていた。

 だが、観終わってから、「観進めると、こころがじんわり温かくなり宮崎駿監督の若者への願いが温かさと共にすっと伝わる作品」だったと思う。端々に、過去作のハウルやポニョ、キキなどのワンシーンを思い出させるような風景に安心する。火垂るの墓などにも見られるように、戦時中の子どもが経験する喪失というテーマが色濃く強調されるオープニング。主人公眞人(マヒト)の喪失感にこちらもかなり心理的にショックを受ける。だがそれが、鑑賞後の心の静けさと穏やかさとのコントラストを生み出す。

 眞人に「自分だけの塔を創りなさい。争いのない、平和な世界を。」と伝える物語のキーパーソン眞人の大叔父のメッセージ。それは、悪意に満ち、争いの絶えない世界であっても、若者よ、前向きに生きろ、と押し付けることなく、そっと背中を押すイメージ。ややニーチェ哲学的思想を感じさせた。

 もう一つ心に残ったのは、眞人の生みの母の久子(ヒサコ)の言葉「素敵じゃないか、眞人を産むなんて。」
この物語には、上の世界と下の世界という二つの世界がある。物語の最後には下の世界が崩壊してみんな上の世界に戻る。眞人は、下の世界で出会った少女時代の眞人の母に「(お母さんが自分の時代に戻る扉を開けて)戻ったら火事で死んじゃう」と言った。
それでも、久子は、宿命あるいは世界のバランス(考察のこの部分は人によっては不謹慎と思うかもしれません。すみません)を理解しているかのように応答し、戻っていく。(ここで映画スタンドバイミードラえもんの、過去を変えたら未来が変わるというのが少し思い出された)
私たちは死者の声を聞けない。残された者は辛い。上手く言えないが、世界はそういうものだとここまで真っ直ぐに受け入れられる人(宮崎駿監督)がこの世にいるんだなぁと、人の視点を作品を通じて知ることで、私も新たな視点を得た。

 私たちは世界という塔を構成する石の積み木の一部であり、そして自分自身という思想の塔の創り手である。

 大叔父が無理やり眞人を下の世界に留まらせなかったことで、(大叔父による余計な引き留めなども無く)ストーリーのメッセージが研ぎ澄まされた。(大叔父ってかなりの鳥好きだったと思う、鑑賞後、私はやや鳥さん恐怖症に、鳥さん好きだけど…‼︎)大叔父の、世界の深淵と眞人の資質を真っ直ぐに見通す包容力。そして癒しキャラの「ワラワラ」に、先ほども言ったが、ラストにかけて心が穏やかに。

 将来いるかもしれない子どもが9歳くらいになったら観たい大切な作品になった。本もプレゼントして。(漫画版が好き)

 ロンドンのコベントガーデン/ホルボーン近くにあるシネマは、アールデコ調、1スクリーン30席程で小規模。スタッフの鑑賞前のアナウンスもユーモアに満ちていて、ふわふわ席の居心地の良い場だった。


The Garden Cinema 


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