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今年の夏に見たアンダーグラウンド

その言葉通りの『アンダーグラウンド』に普段から棲みついていても、サブカルチャーとしてのそれだとか、モチーフ・コンテンツとして感じたことは今まであまり無い。

イメージは雑多・ガラクタ、多少の闇に有機物と無機物の融合、こんなところだ。

そんな私がこの夏、池袋のとあるバーに足を踏み入れる。
お香の匂いと大音量のロック。透き通る金髪のお姉さんと、全身タトゥーで暗闇に溶けたお兄さん。

秘密基地みたいだなあと思った。

とあるお仕事のミーティングで訪れてみたけど、相対的な時間の流れが変わった気がした。金髪のお姉さんが「何呑むー?」と声をかけてくれた。雰囲気のあるソコで、どんなお酒を呑むのがベストなのか学生の私にはわからなかった。オススメありますか?甘いやつ、そう聞くとお姉さんは杏仁豆腐の味がするお酒を作ってくれて、これもまた雰囲気があった。

アジア料理が売りらしく、フードを勧められる。特別にメニューにある料理を少しずつプレートで出してくれるらしい。ガパオライスとカオマンガイと、難しい横文字が並んだ名前のカレーをプレートにして頂いたので、とびきりの空腹を手放す。今まで食べたアジア料理は子供騙しだったのか、と納得がいくほどそれはそれは美味しかった。

フードを振る舞ってくれたお兄さんが店長さんなのかな?よくわからなかったけど、漫画に出てきそうなキャラクターデザインのお兄さん、と印象に残っている。

話を聞いてみれば24年間音楽を続けているらしい。ライブ映像を見せてもらったが、黒光りするグレッチと金髪眉毛全剃りのお兄さんのアンバランスさがめちゃくちゃ格好良くて大きい声が出た。歌声も、曲も、とても好みだった。

カッコいい人を見ると、今の自分が急激にダサく見える。ふと顔を出した惨めさを払拭するには、自分を下げて相手を上げるしか無い…と思い、いろいろ人生相談をしてみた。

「それ、始めてどれくらいなの?」
「どれくらいなんでしょうね…」

若さで仕事をする女の子の一瞬は、般若心経のように長い。取り返しがつかないほど永い。

セブンスターの煙をふうっと吐いたお兄さんは、
「片足突っ込んだだけで、この世の終わりみたいな顔しちゃ駄目だよ」

と私を嘲笑した。

思わず脳天に一撃喰らった。嗚呼、となっている私を横目にガチャガチャした音楽と色彩がクラクションを鳴らしている。

24年間、音楽を続けているお兄さんから言われたその言葉たちはセブンスターのにおいよりも濃かった。

「一緒に売れようね」と最後に言い残してカウンターの中へ戻って行ったお兄さんの、あれもこれもが格好良くて、でもこんな小娘にそんな言葉をかけるの死ぬほど悔しいだろうなとか思いながら、杏仁豆腐のお酒を流し込む。

あのお酒には何が入っていたんだろう。

よく知らないアングラなバーで、世界に閉じ込められた気分になって、なんか夏だなって感じた。



※この記事には創作も含みます

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