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創業90年の酒屋がアウトドアメーカー「MIYAGEN Trail Engineering 」をはじめます。

突然ですが、私は6年勤めたアウトドアメーカーを退職し、家業の酒屋を継ぐべく実家に戻りました。そして酒屋を営みつつ自らアウトドアメーカーを立ち上げる挑戦をします。

そして来週から半年間かけて、全長4200kmにも渡るアメリカのパシフィック・クレスト・トレイル(Pacific Crest Trail、略称PCT)というロングトレイルを踏破する旅へ行きます。

いきなりの情報量でよくわからないと思いますが、順を追って説明させてください。

1. 創業90年の宮源酒店

私の実家は「宮源酒店」という酒屋を営んでいます。

愛知県岡崎市の小さな商店です。今でいうコンビニの様な役割をしているお店です。一代目の宮崎 源十郎が百姓を辞めてリアカーに商品を積み込み、旅をしながら商いが始まりました。

そして1932年に現在の「宮源酒店」を創業させます。
2022年には創業90年となりました。

2店舗目の宮源酒店(1950年頃)
創業者のひい爺ちゃん宮崎源十郎(一代目)とひいお婆ちゃんの角さん
TOBACCO売り場と、たぶん婆ちゃん
現店舗で働く現役の頃の爺ちゃん(二代目)
ノブ婆ちゃん、爺ちゃん(二代目)、婆ちゃん
たぶん父ちゃん(三代目)

「宮源酒店」は今年めでたく創業90年を迎えることができました。しかし経営面では厳しい局面に立たされております。

酒類販売免許の実質自由化に伴い、多くの売酒屋は大手チェーンにシェアを奪われ閉店を余儀なくされました。売上の少ない個人店は問屋に切り捨てられ、仕入れ自体ができない商品もあります。

街の小さな酒屋は大きく変わらなければ生き残るすべはありません。

  • セレクトショップのように個性的な商品を仕入れる

  • 新たな業種をはじめる

私ひとりの酒屋ではないため家族の理解を得られなければ難しいことがたくさんあります。


2. これまでの私の人生

私の生い立ちについても少しご紹介します。

私は小さい頃から自転車で裏山を駆け回り、泥だらけ傷だらけで落ち着きのない子供でした。手を動かすのも好きで、小学生の頃から道具を改造したり自作をしたり、機械が好きでロボットコンテストのためにロボットを作ったりしていました。

高校と大学では電気と工学を学び、工学知識を活かせる工業メーカーへ行こうと思ってました。

高校生の頃にアウトドア雑誌で世界一美しいトレイルと呼ばれるアメリカのジョンミューアトレイルについて紹介されており、軽量な道具への興味と、いつかアメリカのロングトレイル挑戦に憧れるようになりました。

そんな思いもあり、大学3年生の時に一年間休学し、まず日本一周の旅に挑戦しました。この時は自転車でしたが、旅をする中で自然の美しさに出会い、アウトドアで使う道具を作りたい気持ちが強くなりました。

高校・大学の友人達が工業メーカーへ進む中、私だけはアウトドア業界へ進むことになりました。

会社の上司も後輩もアウトドア友達

アウトドアメーカーではプロダクトの開発や試作、生産のサポートに携わり、慌ただしくも充実した毎日を過ごしました。

また、帰宅後は自分だけのための道具を作ったりもしてました。年々と自分で求めるレベルが高くなり、本業と同じクオリティにしたいという思いにも駆られ、工業用ミシンや3Dプリンターを自宅に買い揃えたりもしました。

物作りはパズルを解くようで本当に楽しかったです。

アウトドアメーカーでは何百万人もの方が使用されるプロダクトを作る機会にも恵まれました。また社内の登山仲間にも囲まれて、気がつけば6年が過ぎていました。

そんな折、実家の酒屋が経営を続けていくのは困難な状況にあることを知りました。90年間三代にも及んで続いた家業を、なんとかして救いたいという思いが芽生えるようになりました。

その一方で、ロングトレイルを歩く夢と自分でアウトドアメーカーを立ち上げたい気持ちも諦められずにいました。

悩み抜いた末、

  • ロングトレイルを踏破する

  • アウトドアメーカーを立ち上げる

  • 実家の家業を救う

この3つの困難に立ち向かうために、私は6年間勤めたアウトドアメーカーを退職しました。


3. ロングトレイル

まずはロングトレイルへの挑戦です。

ロングトレイルとは、明確な定義は存在しませんが「補給を必要とするような長距離の登山やハイキング」です。

日本では「東海道自然歩道」「四国八十八箇所」などが該当します。特に東海道自然歩道の源流はアメリカのロングトレイルから着想を得て生まれた道です。

PCTとは

PCTとは、パシフィック・クレスト・トレイル(Pacific Crest Trail)の略称で、アメリカ西海岸のメキシコからカナダまでの8以上の山脈と山地を超えて全長4200kmを縦走をする長距離自然歩道です。

PCTの道標にもなっているロゴ

4200kmという途方もない距離と日本を嵌め込むとすっぽりと覆われてしまうほどの距離の山道を歩くこととなります。

Mojave砂漠から歩きはじめ、樹林から雪山を含む山岳地帯のシエラ山脈を超え、北緯49度線のカナダ国境までを歩く。

最高標高は富士山を超えた標高4017m、距離は東京〜台湾 2100kmを往復できてしまいます。

この縦走は雪解けから冬が訪れるまでの間に歩ききらなければなりません。
そして私のような外国人にはビザが有効となる半年以内という厳しい制約があります。

つまり単純計算で毎日23km以上歩かなければカナダへ辿り着くことはできません。

私はこのPCTが長年の夢であり憧れのロングトレイルでした。PCTは自然への影響を防ぐため毎年限られた人数しか行けません。私は2022年のPCTの許可証を受け取り、念願のPCTを歩くチャンスを手に入れました。

日本がすっぽりと入るロングトレイル


4. メーカー始動

退職してからの半年間は、酒屋の立て直しを進め、ロングトレイルへの準備も進めつつ、プロダクトの開発を行ってきました。そして、とうとうアウトドアメーカーを始めます。

「MIYAGEN Trail Engineering」です。

MIYAGEN Trail Engineering

“MIYAGEN”とは

ブランド名となる「MIYAGEN」は見てのとおり、酒屋の「宮源酒店」から取っています。

「宮源酒店」の名は、遡ること創業者の「宮崎 源十郎」の名前が由来となっています。

源十郎は百姓という安定した生活を手放して、リアカーに商品を詰め込んで旅をしながら商売を始めました。

自分のアウトドアメーカーの名前を何にしようか思いを巡らせていたとき、商いを旅からスタートした宮崎源十郎と、これからPCTというトレイルに挑戦する自分に重なるものを感じて、この名を継ぐことにしました。


“Trail Engineering”とは

長距離のトレイルを歩くには軽くて耐久性の高いギアが必要になります。

私は工学部でCAD/CAM/CAE、工学物理、構造力学、材料力学、FAなどを勉強し、アウトドアメーカーでもプロダクト開発で経験と知識を蓄積してきました。

道具を軽量化するほどに、本来は耐久性を維持することが難しくなります。しかしエンジニアリング、そしてアウトドアフィールドでの実証と経験によって最適なバランスを追求することが出来ると信じてます。

「よく強く」「より軽い」道具をエンジニアリングによって作る。“Trail Engineering”にはそんな想いを込めました。


遠くまで歩くためにエンジニアリングするメーカー

MIYAGEN Trail Engineeringのステートメントをこのように定めました。

MIYAGEN Trail Engineeringのステートメント


MIYAGEN Trail Engineeringのロゴ

これがMIYAGEN Trail Engineeringのロゴです。

私がプロダクトエンジニアとして参画している「PREDUCTS」というメーカーの皆さんにサポートしていただきながら作られましたが、ロゴマークが決まるまで半年もの時間がかかりました。既にロングトレイルでした。

  • MIYAGENのMとNを繋げて表現

  • 曲がりくねった道

  • 大地の地層

  • 軽くて強いトラス構造

  • 材料の性質を活かしたバネ

  • 90度回転させるとミヤゲンの「ミ」

回転すると「ミ」にも見えるロゴ


5. MIYAGEN Trail Engineeringのプロダクト

Miyagen Trail EngineeringのギアでPCTを踏破する。その気持ちを胸に刻み、毎晩深夜までサンプルを作りました。
これまで開発したプロダクトをいくつかご紹介します。

①バックパック

旅では生活の全てのアイテムをバックパックへ詰め込んでいきます。全てを背負い続けるバックパックは旅を支える最も重要なプロダクトだと考えています。

第一弾はPCTに向けて45Lのサイズを開発しました。超軽量で身体に追従する構造力学に基づくシンプルな独自フレームを搭載しているのが特徴です。(特許出願準備中)

PCT用に開発したバックパック
10回以上バックパックのハーネスのパターンを作り直した
何度もバックパックのパターンを作り直した
サンプル修正の度に徹夜をした
PCTへ持っていくサンプルを縫い続けた
適切な部位に荷重を分散させるために、ショルダーハーネスやウエストベルトなどのパターンの試作を何度も繰り返しています。


②超軽量ホイッスル

プラスチック加工は私の専門分野でもあり、3Dプリンターの特性を活かし、金型では不可能な構造を採用しました。僅か2gという超軽量で、軽い息でも120dbもの大音量のホイッスルを作りました。

超UL、超うるさい、ホイッスル
次世代のホイッスルを試作中(写真は失敗作)


③手ぬぐい

PCTのような長距離のトレイルでは、定期的に食料の補給のためにトレイルと街をヒッチハイクによって行き来する必要があります。

そのために「山へ、街へ」と通りすがりのドライバーへ掲げる手ぬぐいを作りました。道路上でも視認性がよくなるようにプルキニェ現象を利用した青地に白抜きの配色にしています。

大学生活を過ごした静岡県浜松市は日本三大綿織物産地の一つとしても知られています。とても幸運なことに伝統工芸の浜松注染で手ぬぐいを作っていただきました。

伝統工芸で作った浜松注染の手ぬぐい
友達の版画デザイナーが描いてくれた知多木綿の手ぬぐい
手ぬぐいを買っていただいた方へ発送作業(やりたい事に向かって歩く人を応援します)
売上金を利用してロングトレイルハイカーへの支援(この活動は今後も続けたい)

すでに手ぬぐいとホイッスルは下記URLで販売しています。

プロダクトの発売に向けてPCTという過酷なフィールドでテストをしてきます。将来製品化できることを楽しみにしています。

PCTに向けて試作したプロダクトは、大きなものから小さなものまで数えてみると25個にもなりました。上に挙げた以外にも制作の過程をお見せしたいと思います。

大量の試作品
とてもありがたいことに地元や地方の小さな工場にも協力していただき、大阪のヘラ絞り職人とも出会いました。
いい生地と工場と出会いPCTで着用するウエアも作った
特殊なミシンを必要とするため縫製工場に協力していただいた
母親が文句を言いながらショートパンツを作ってくれた(シンプルなパターンでありながら良い履き心地)
私の作業場


6. ティザーサイト作りました

PCTでのテストを経て、帰国後にMIYAGENプロダクトの製造・販売を開始します。

まだティザーサイトなので情報がほとんどありませんが、メールアドレスをご登録いただければ、PCTからトレイルの旅の記録やギアの使用状況など、ニュースレターをお送りします。

SNSでも旅の状況などを発信していきますので、フォローしていただけると嬉しいです。
https://twitter.com/miyachi0730
https://www.instagram.com/miyachi0730/


7. 最後に

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

30歳の節目となる今年、無謀なチャレンジだと自覚しつつも、4200kmのロングトレイル踏破を皮切りに、酒屋の立て直し、アウトドアメーカーの立ち上げにこれから挑戦していきます。

これから宮源酒店とMIYAGEN Trail Engineeringをよろしくお願い致します。


読んでいただけるだけでも大変嬉しいです。もしご支援を頂いた場合は新たなチャレンジへ使わせて頂きます。