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変態になりたい人が増えている~日本講演新聞

「感動」と「学び」を世界中に~日本講演新聞がお届けします。

 昨年の3月に教育委員会を退職した「たまちゃん」こと、小玉宏さんは自分のことを「変態」だと思っている。

 まだ40代、このご時世にわざわざ公務員を辞めるなんてどう考えてもおかしい。しかも、退職して結婚した。

 普通、逆だろう。
結婚できない理由の上位にあるのは非正規雇用などの不安定な経済事情だ。
それなのに彼女の両親にあいさつに行って、「公務員を辞めました。お嬢さんと結婚させてください」はおかしい。

 たまちゃんは、全国各地で筆文字講座をやっている。
小さい頃から磨き上げた書道の腕前で生きていく、というわけではない。
筆文字を始めたのはほんの3年前だ。
生粋の素人である。

 筆文字を面白がって書いていたら、だんだん個性的な字になった。
自分で考えた詩をその字で書いて、ネットにアップしていたら、「面白い!」「感動しました!」とファンが増えていった。

 調子に乗って、「欲しい人には詩集をプレゼントします」と書き込んだら、全国の物好きな人たちから、「欲しい」というメールが殺到した。

 コピーしてホッチキスで製本していたが、1000人を超えたあたりから体力の限界を感じ、業務用の印刷機と製本機を買った。
そして、手押しの裁断機も時間がかかると電動式裁断機に買い替えた。
部屋の中が印刷工場になった。

 給料のほとんどを見知らぬ人へのプレゼントにつぎ込んだ。
結婚するとき、貯金は底をついていた。

 そのうち、「筆文字を教えて」「講演して」と全国から声が掛かるようになった。  

 気が付いたら週末は1年先まで埋まってしまった。当時は公務員だったので交通費だけもらって喜んでいた。

 一番不思議なのは、たまちゃんと出会った人がみんな元気になることだ。たまちゃんって一体何者なのか?

 教師時代、こんなエピソードがあった。

 合唱コンクールなどをやっている中学校では、新年度のクラス編成のとき、各クラスにピアノが弾ける子を入れるが、たまちゃんがいた中学校はそういう行事をやっていなかったので、そんなことを考慮に入れずにクラス編成をしていた。

 ところが、新しく赴任した校長が「合唱コンクールをやる」と言い出した。

 たまちゃんが受け持ったクラスにピアノが弾ける子はいなかった。1人、小学校のときにピアノを習っていた子がいたので、その子に伴奏をお願いした。
そしたら次の日から不登校になった。

 「これはまずい」と思った。
すぐ家庭訪問して謝って、「先生がやる」と言った。

 「先生、ピアノ弾けるんですか?」
「弾けるわけないやん。触ったこともないし」

 帰りにキーボードを買った。
空き時間、休み時間、放課後、練習しまくった。
下手くそだったピアノが少しずつ上達していった。

 そして発表の日、たまちゃんは見事にピアノ伴奏を務めた。
生徒たちは不可能に挑戦した先生の姿に感動した。

一番感動したのはクラス一のヤンキーだった。

 お母さんから電話があった。
「息子がキーボードを買ってほしいと言っている」と。

 嬉しそうだった。

その子は中古のキーボードを買ってもらい、毎日練習し始めた。

 たまちゃんは、参観日の懇談会をクラスコンサートにした。

 そこで今まで何にもやる気のなかったヤンキーがキーボードを演奏した。お母さんは涙が止まらなかった。

 たまちゃんはやっぱり「変態」だった。

 「変態」に触れると「変態」になるらしい。「変態」は伝染するのだ。

 理科の教師だったたまちゃんの話によると、「変態」とは生物学の専門用語で、幼虫がサナギに、サナギが成虫になることを意味する。

 「態」とは「あり方」「生き方」だ。

 それまで葉っぱの上でしか生きられなかった幼虫がサナギになって、殻の中で自らの体を溶かし、全く新しい体につくり変えていく。

 全エネルギーをそれに使うのでサナギは動けない。本人にしてみれば理不尽なことだろう。

 しかし、その理不尽な苦しみを耐え抜くと、殻が割れ、翼を手に入れ、大空に羽ばたく。全く別の生物になる。

 それが「変態」だ。「変態」を目指すなら、勇気を出して、「変態」に近づくことである。

(日本講演新聞 2590号(2015/02/23) 魂の編集長 水谷もりひと 社説より)

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