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キミはボクの年下の先輩。第12話「ごめんね、ショタくん。もうちょっとだけ我慢してね?」

  *

 昼食を食べ終えたボクと先輩はファミレスを出て、ある場所へと向かった。

 ゲームセンターだ。

「わぁ……すごい……」

 ボクは思わず感嘆の声を漏らす。

 ゲームセンターには様々なゲーム機が置かれていた。

 その中にはボクの知らないものもあったので少しワクワクしてしまう。

 そんなボクの様子を見ていた加連先輩はクスクス笑っている。

「ふふっ♪ そんなに興味ある?」

「はい! あまり、こういうところに来たことがなかったので」

「へぇ〜そうなんだ。じゃあ、私がいろいろ教えてあげるよ!」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 そんな会話をしながらボクたちは店内を散策する。

 最初に加連先輩が足を止めたのは格闘ゲームだった。

 彼女は慣れた手つきで操作していく。

 その動きはとても華麗で美しかった。

 ボクはそんな彼女に見とれてしまっていたのだが、突然彼女が話しかけてきたので少し驚いてしまった。

「どう? やってみる?」

 ボクは悩んだ末に断ろうとしたが、加連先輩の期待に満ちた瞳を見てしまう。

 なので、ボクはプレイしてみることにした。

 慣れない操作に戸惑っていたけど、徐々に慣れてくる。

 そんなボクを見ていた加連先輩は嬉しそうに微笑む。

「ショタくん! 上手だね!」

「そ、そうですか?」

 ボクは照れくさくなりながらも答える。

 そんなやりとりをしながらもゲームを進めていく。

 しかし、そのときに近くにいる加連先輩の甘い吐息が耳元にかかってくるものだから、ボクは集中できないでいた。

 あと、彼女の胸がボクの背中に当たってくる。

 正直、集中力が下がってきて、羞恥心も強くなってきた。

「違う、そうじゃない!」

「……えっ?」

「それじゃ敵、倒せないよ!」

「でも…………」

 彼女の胸の感触がボクの背中に、とにかく当たる。

「ちょ、加連先輩! 当たってる! 当たってますって!」

「え? あ〜ごめん!」

 彼女は軽く謝ったあと、なぜか……さらに密着してきた。

(なんで!?)

 ボクは内心パニック状態だったが、なんとか冷静さを保ちながらプレイしていく。

 そんなボクに加連先輩は耳元で囁いてきた。

「ショタくん♪」

「ひゃい!?」

「この戦いに勝ったら、ご褒美あげる♪ だから、がんばって!」

「え……? あ……はい……?」

「ねぇ、ご褒美、なにが欲しい?」

「ふぇっ!?」

 ボクの頭の中は混乱していた。

「あ……えっと……そ、その……」

「うん?」

 ボクは一度、深呼吸をすると意を決して言った。

「…………か」

「か?」

「かれ……」

「彼?」

「カレ……エが食べたい、です」

「カレーね! わかったよ!」

 うわあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!! ウソついてしまったあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!

 加連先輩が欲しいって言おうとしたのにっ! どうして、そういうところで臆病になった!?

 どうして、そういうところでウソをつくんだ!? ボクは、どうしようもない弱虫だ!!

「……ショタくん? どうしたの?」

「え、えっと……な、なんでもないですよ!」

「そ? あ、ほら、次が来るよ!」

「えっ?」

 ゲーム画面から目を離していた瞬間、ボクは敵の攻撃を受けてしまう。

「し、しまった! 油断していた!」

 そんなボクを加連先輩は励ましてくれる。

「まだ大丈夫だよ! がんばれショタくん!!」

(先輩……!)

 ボクは気持ちを切り替えながら敵と対峙していく。

 今度は冷静に相手の動きを見て――。

(ここだ!!)

 ボクの操作したキャラクターの攻撃が決まった瞬間、敵が倒れたのを確認するとボクは小さくガッツポーズをした。

 すると、隣で見ていた加連先輩が笑顔で拍手してくれた。

「やったね! ショタくん! おめでとー♪」

「は、はい!」

 ボクは少し照れながら返事をする。

「じゃあ、約束通り、ご褒美をあげるね♪」

「え……? 加連先輩?」

「違う違うカレー。夜ごはんはカレーの店にしよう!」

「……や、やや、やったあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!」

 ボクは悔し涙を流さずにはいられなかった。

 でも、喜んでいる自分がいるのも確かだ。

 そんなボクを見て、加連先輩は優しく微笑んでくれた。

「でも、もう少しだけ私に付き合ってね♪」

「はい! わかりました! 次は、なにをするのですか?」

「やっぱりゲームセンターに来たらさぁ……クレーンゲームでしょ♪」

「クレーンゲーム?」

「そ♪ えっとねぇ……」

 加連先輩はクレーンゲームの前に立つ。

「私が見本を見せるから、ショタくんは、そこでしっかり見ててね♪」

「はい!」

 加連先輩は真剣な目でクレーンゲームを見つめている。

 百円玉を投入するとクレーンが操作できるようになり、それを動かす年下の先輩。

 少しずつアームが下がっていくと景品の入った箱の上まで来たのでボクは内心ドキドキしながら見守っていた。

(あ……取れた……!)

 そう確信すると景品の箱を掴んだアームは、景品を出口まで運んでいく。

「よしっ♪ 一発ゲット〜♪」

 加連先輩は嬉しそうに笑うと、さっそく景品を取り出した。

「はい! ショタくん、どうぞ!」

「あ……ありがとうございます……!」

 ボクは驚きつつも景品を受け取る。

(ああ……年下の先輩……すごすぎる……!)

 クレーンゲームで景品を一発でゲットする加連先輩の手捌きは、まるで魔法使いのそれだ!

(ボクもやってみたい……)

 そんなボクの心の声を聞き取ったのか、加連先輩は微笑んだまま言った。

「ほら、次はショタくんの番だよ」

「え……ボクの番?」

「うん♪ 私のプレイを見てたんだから、きっとできるはずだよ!」

「は、はい! わかりました!」

(よし! やってみようか!)

 ボクは気合いを入れ直してクレーンゲームと向き合う。

「がんばってね♪」

 加連先輩の応援のおかげで力が湧いてくる。

(よし……まずは運試しだ!)

 百円玉を一枚投入して、さっそくチャレンジする。

 だがしかし……結果は無惨なものだった。

(あれ……?)

 その後も何度か挑戦してみたけど……結果は惨敗だった。

「……先輩、ごめんなさい」

「あ〜……うん、ドンマイ!」

(うぅ……)

 そんなボクを加連先輩は優しく慰めてくれたのだった。

  *

「ショタくん、もう夕方だね〜」

「はい」

 クレーンゲームで遊んでいたら、いつの間にか時間が経っていたようだ。

 ボクたちはゲームセンターを出て帰路につく。

 そんな道中も加連先輩はボクの手をつないでくれているので嬉しい限りだ。

「あれ? 京姫じゃん~! って、隣の……誰だよ!?」

 男の声が後ろから聞こえる。

 ボクは思わずビクッとしてしまう。

(なんだ……このチャラチャラした男は……?)

 後ろを振り向くと、そこには数人の男が立っていた。

(あれ? でも、どこか見たことのある顔のような……同じ高校の人たちか?)

 そんなことを考えていたら、加連先輩が少し不機嫌そうな表情で、その男たちに話しかける。

「もう話しかけないで、って言わなかった? どうして、ここにいるの?」

「そんなこと言わないでさ~! 同じ文芸部なんだし、一緒に遊ぼうぜ~!」

「文芸部!?」

 ボクは驚くが、加連先輩が否定する。

「違うよ。元文芸部員」

「元だったら、とっくに終わってるよ文芸部。今、京姫だけだろ。なあ、オレらと遊ぼうぜ!」

 男たちは、しつこく加連先輩に絡んでくる。

「だから、話しかけないでって言ってるでしょ! それに私と一緒にいるのは、この子だけよ」

「この子って誰だよ?」

「四戸祥汰です。よろしくお願いいたします」

 ボクは丁寧に頭を下げた。

「は? で、誰?」

「文芸部の部員ですけど」

 加連先輩がキッと睨むと男たちは黙り込んだ。

「ごめんね、ショタくん。もうちょっとだけ我慢してね?」

「……いえ、大丈夫です」

「ふふっ♪ ありがと♪」

「なに二人だけの世界作ってんのじゃボケえええええぇぇぇぇぇぇっっっっっっっ!! 京姫は俺の彼女だろうがっ!」

「私、彼氏なんて作ったことないのだけど。それに、いつ私があんたの彼女になったの?」

「ハァッ!?」

「もう話しかけないで」

「なっ……!」

 男は怒りに震えているが、ほかの男が間に入ってくる。

「まぁ、おまえ落ち着けよ」

「チッ!!」

 彼の態度に思わず後ずさりしそうになるが、そんなボクの様子を察した加連先輩はボクに声をかける。

「ショタくん、行こっか!」

「えっ?」

「ちょ、待てよ! 話は終わってねぇぞ!」

「さよなら」

 ボクは加連先輩に手を握られながら男たちから逃げていくのだった。

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