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家出した飼猫を一晩中さがし回った

猫のヒメはこの夏で17歳。人間で言えば80歳以上だろうか。

もらわれてきた時から1度も外に出されたことがない。閉め忘れた掃き出し窓からうっかり庭に降りちゃったことは何度かあるが。若い頃は私と夫以外の人前にはけっして出てこなかったから、本来は野性味が強いのだろうが、野原を駆けずり回ったりネズミを捕まえたりすることは、これからもないだろう。

それって、しあわせ? それとも可哀想?

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テレビが好きなのは、飼い主がいつもテレビをつけているから。

画面の前に立ちふさがり、ずいぶんと邪魔をしてくれる。それでも怒られないのはこの子くらい。むしろ、「ヒメちゃんは何が映っているのか分かるのね、なんてお利口さん!」と、ほめられる。

この家に引越してきてから間もない数年前、寝ようとして気づいたら窓が開けっぱなしで、ヒメがいなくなっていた。家中をくまなく探したが、どこにもいない! 万一戻ってきたら家に入れるよう窓を開けたままにし、あとのことは夫に頼んで、私は飛び出した。小雨が降っていたので傘をさし、ヒメの名を呼びながら近所中を探し回った。

その時ワラにもすがる思いで検索しまくったネットに、「雨が降っている間は猫は移動せず雨宿りしている」とか、臆病で期せずして外に出てしまった猫は「遠くへは行かない。たいていワン・ブロック内の近所に隠れている」等々たくさんの書き込みがあった。

あの時ほど、インターネットがありがたく思えたことはない。私と同じ思いで迷子猫を探しまくったことのある全国の飼い主さんたち、適切なアドバイスありがとうございました!

そのとおり、ヒメは2軒先の庭の奥の物置下に潜んでいたのだった。雨がようやく上がり、そこを何度目か通りかかった時だった。ヒメー!ひめー!という私の呼びかけに「ニャ」と答える声が遠くからかすかに聞こえたのだ!!! その後も呼びかけるたび「ニャ」「ニャ」と小さく答えてくれた。

そのままじっと待機して車の往来が気になり始めた朝6時すぎ、思い切ってそのお宅の呼び鈴を鳴らし、門扉の鍵を開けてもらった。

幸いその家の老婦人が優しい方で、早朝の乱入者にも怒らず、「アナタ、あんな奥の物置の下から猫ちゃんをよく見つけられたわね」としきりに感心しながら快く捕獲させてくださった。まことラッキーでした、深謝。

勇敢で物怖じしない手練れの雄猫なら近所にとどまらず、雨の中でも信号を突っ切って鶴見川の土手あたりまで行ってしまったことだろう。ヒメは臆病で怖がりだから、思いがけずポンと外に出てしまったものの帰り道もわからず、途方に暮れて震えながら隠れていたのだろう。

あの晩の私は、踏み込める近隣のお庭に勝手に入り、物陰などを必死で覗きまわる怪しい者だった。

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あの時のかすかな一声「にゃ」が聞き取れたこと、それは今でも自分を誉めてあげたい。

近頃ヒメはうって変わって図々しくワガママになった。慢性腎炎と診断され、半介護状態である。老化が進み認知症も出始めたか、日中はずーっと寝たきりで、夜中にギャー、ニャオー、と大声で喚いている。

あの小声のかわいい「にゃ」は、「今は昔」である。

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