3つの好きな映画|ひとり、アートな気分でヴェネチアの金獅子を[あのこと、ノマドランド、ジョーカー]
トラベル、トリップ、ジャーニー、ツアー
“旅”を意味する単語は多種多様。「トラベル」が一番一般的な旅行を表す。「トリップ」になると、少し小さな旅で、場所も1ヶ所かなぁと想像できる。
「ツアー」は各地を巡ることを想起させる。ぐるっとまわって元の場所に戻ってくるイメージ。反対に、「ジャーニー」と聞くと、少し冒険心をそそられる。目的地を目指して、一方向の矢印のイメージ。
Cruiseになると海の旅で、Flightになると空の旅。Voyageなら宇宙の旅にも使えるし、pilgrimageとなると巡礼の旅となる。
日本語に比べて、外国語は“旅”を意味する表現がとっても豊か。だからといって、日本語は貧相かというとそうではない。トリップもツアーも、カタカナでそのまま使ってイメージがパッと思い浮かぶので、もう日本語そのもの。
「ツーリズム」や「デスティネーション」だって、新しい概念をそのままカタカナで使いこなしてしまうんだから、日本人はたくましいかぎり。
旅の単語で、日本語の多様性に気づく
日本語って素晴らしい
*
ということで、つい最近閉幕を迎えたヴェネチア国際映画祭のおすすめ映画3選。カンヌ、ベルリンと比べても、バランスよく、現代を鋭く捉えたものが選出されている印象。
60年代のフランス、たった独りで戦う大学生
ひとりで、日々を乗り越える現代の遊牧民
孤独に孤立した一人、社会と共鳴し、肥大する
独り、ひとり、一人
ひとり、アートな旅気分で、ヴェネチアの金獅子賞でもどうでしょう、という話。
旅 と 世界遺産 と 映画
外国人旅行者数ランキングで上位の顔ぶれはいつも同じで、Top3はフランス、スペイン、アメリカ。だいたい9000万人。次が、中国とイタリアで6000万人。それ以降はトルコ、メキシコ、タイ、、、と続き、12位くらいまでだいたい3000万人。日本もこの3つ目のグループに位置している。
ちなみに、世界遺産の登録数を見ると、50件以上はイタリア、中国、ドイツ。40件以上はスペイン、フランス、インド。その後、15位まで20件以上が続く。
イタリアは予想通りの観光立国。世界一の数を誇る世界遺産に、歴史の凄みを感じる。三大映画祭のフランス、イタリア、ドイツ。アカデミー賞のあるアメリカ。上位国の顔ぶれをみると、映画文化の深さと、旅と世界遺産の数は、とっても関係性が深いみたい。
今年のヴェネチアで最高賞の金獅子賞は、イギリスの『哀れなるものたち』。銀獅子賞は日本の『悪は存在しない』と、イタリアの『Me Captain』
これらの公開はまだ先だけど、まずはすぐに観ることができる2019年〜2021年に金獅子賞を獲得した3本をご紹介。いい作品は歴代いろいろあるけれど、直近の3作が一番バランスよく、面白く、考えさせられる。
60年代のフランス、たった独りで戦う大学生
ひとりで、日々を乗り越える現代の遊牧民
孤独で孤立した一人、社会と共鳴し、肥大する
–ヴェネチアの金獅子で、ひとりを感じる–
2021|あのこと
あなたは〈彼女〉を体験する
60年代中絶が違法だったフランス、大学生アンヌは予期せぬ妊娠に狼狽するも、夢と学位のために、たった独りで戦う12週間が描かれる。
この作品の特別なところは、本作と対峙した観客が、「観た」ではなく「体験した」と、語ること。特別なカメラワークで、没入感と溺れるほどの臨場感に襲われる。
60年代って大昔ではなく、ちょっと前なのに、、
2020|ノマドランド
ドキュメンタリーとフィクションの境界を超える
数百人のノマドを取材して書き上げたノンフィクションが原作。広大なアメリカ西部の美しくも厳しい自然の中で発見するロードムービー。
企業の破綻と共に、長年住み慣れたネバタ州の住居を失い、キャンピングカーで季節労働の現場を渡り歩く。現代のノマド=遊牧民。その日、その日を懸命に乗り越えながら、誇りを持った自由な旅が続いていく、、、
ホームレスじゃない、ノマド。
また、路上で会おう。
2019|ジョーカー
バットマンの宿敵が誕生するまでの物語
アメリカの娯楽大作が受賞することすら稀な世界三大映画祭において、アメコミヒーロー作品が金獅子賞を受賞するという快挙。
「カリスマ的な悪」ではなく「一人の人間」として描かれたジョーカー。貧困にあえぐ平凡な市民が銃撃事件を起こす。アメリカでの公開に際しては、警察や陸軍が警戒態勢を強化するという事態……。
個人と殺伐とした社会が共鳴し、狂気が肥大する
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