3つの好きな映画|数理と詩情が共鳴する美しき世界[インターステラー、インセプション、テネット]
「月が綺麗ですね」
夏から秋になると気温が下がり空気の対流が減少し、舞い散るチリがすくなるなる。また乾燥した空気は、含まれる水蒸気も雲も少なく、澄んだ空になる。なので、月が綺麗に見えますね。
という返答は間違っていないけど大失敗。愛の告白を感じ取る文系脳か、理屈っぽい理系脳か。ここが大きな分かれ道…
「Hの意味を教えてください」
ここはスマートに水素と答える。決して卑猥な意味で捉えることなく。文系脳で墓穴を掘らず。ただ、建築設計を生業としている身としては、「H=高さ」と脊髄反射的に捉えてしまう。これは一種の職業病…
ここはヒモでサイクルで、ほぼシミュレーション
紹介する3つの映画はすべて同じ監督のもの。物理学の専門家をチームに入れて、できるだけ科学的な整合性をとりながら、奥深い物語をゼロから生み出す。
数理の秩序 と 詩情の奥深さ
映画のためにつくった映像が、論文で使われたり、映画公開以降に発見されたブラックホールの映像が、映画のワンシーンと酷似していたり。クリストファー・ノーラン監督はとってもすごい。
この世はすべて「ひも」でできている
物質の最小単位はつぶではなくひもである、という理論。極小の世界では、観察する行為が現象の結果を決める。“観察者”がいないと世界が決まらない。
この世はコンピューターシミュレーション
この世は“何者か”によってシミュレーションされた世界である、というもの。すべての未解決問題が解決した将来、世界がすべて数式で表すことができるとすると、実現できてしまう世界。
この世は再生と逆再生の繰り返し
宇宙が膨張と収縮を繰り返すという理論。エントロピーが増大することを"時間が流れる"と定義する。なので、エントロピーが減少するとき、宇宙が収縮に転じ時間は逆再生する。
“観察者”、“何者か”、“時間とは”
最新物理学は、哲学的な問いと紙一重。すべではヒモで、この世は仮想世界で、振幅を繰り返す。
そこはヒモでサイクルで、ほぼシミュレーション
数理と詩情が共鳴する映像体験
インターステラー|量子重力理論
この世はすべて「ひも」でできている
世の中は4つの力で構成されている。重力、電磁気力、原子核をかたちづくる強い力、原子核を変化させる弱い力、の4つ。この4つを同時に扱う統一理論は『量子重力理論』と呼ばれ、まだ未完成の理論。
量子重力理論で一番有名なのは「超ひも理論」、次が「ループ量子重力理論」。「ひも」と「ループ」で何が違うんだ…と思ってしまうけど、全然違う。
「超ひも理論」は物質の最小単位を点ではなくひもと考える。時間と空間の概念は今のまま。反対に「ループ量子重力理論」は物質の概念は今のままで、時間と空間を粒子のネットワークと考える。(知らんけど)
モノの概念を変えるか、環境の概念を変えるか
インターステラーでは、5次元の概念が出てきているので、超ひも理論をベースにしているんだろうなぁと推察できる。ブラックホール内部の特異点データを手に入れて、統一理論を完成させることができるのか?というところも映画の見どころ。
インセプション|シミュレーション仮説
この世はすべてコンピューターシミュレーション
我々が認識している世界は、すべてコンピュターシミュレーションの中の出来事、という仮説。トンデモ理論ではなく、最新物理学の世界で真面目に考えられているもの。
仮に人工知能をもった個体をメタバースの中にいれた場合、その個体は自分がシミュレーションの中にいるとは気づかない。それが現実世界だと認知してコンピューターの中で生きていく。
そして、我々の世界がシミュレーションの中の出来事ではない、という証明は今現在できていない。我々の知り得ない誰かがコンピューターシミュレーションしているだけかもしれない、と。
シミュレーション仮説の裏付けは、物質の最小単位の素粒子はビットへ、物理法則はコードへ、光の速度がプロセッサーの処理速度へ、置き換えることが可能である点が挙げられる。
将来、すべての数学的、物理的な未解決問題が解決したとき、世界はすべて数式に置き換えることが可能となる。つまり、すべてシミュレーションで未来も過去も再現できてしまう。そのとき、シミュレーションの中の人は、シミュレーションであることに気づくのか?
夢か、現実か、はたまたシミュレーションか。
映画をきっかけに、最新物理学の深みに…
テネット|サイクリック宇宙論
この世は再生と逆再生の繰り返し
透明な水の中に、墨を一滴垂らすと、徐々に黒い液体が広がりグレーの水になる。逆にグレーの水から、徐々に墨が集まることはない。熱いモノは冷たくなるし、秩序だったものは徐々に無秩序になっていく。
宇宙が誕生してからずっと無秩序になる方向に進んでいる。秩序から無秩序へ。それが時間の正体。じゃぁ無秩序から秩序へ向かえば、時間は逆戻りするんじゃない?というのがTENETの根幹。
宇宙の始まりも終わりもよくわからない
宇宙が膨張していることはわかっているけど、最初の極小のときも、膨張がいつまで続くかもわからない。だったら膨張と収縮が繰り返されると考える方が自然じゃない?というのがサイクリック宇宙論。
今は無秩序に膨張し、あるとき収縮に転じて秩序だっていく。時間が逆どもりする。このアイデアを現実世界に取り込むとどのなるか?それをかっこいい映像に仕上げたのが、この映画のすごいところ。
逆再生の世界がどう見えるか?一見の価値あり
数理と詩情が共鳴する美しさ
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