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Stones alive complex (Brookite in Quartz)


一歩後のエシーラが、一歩前のエシーラをくるりと振り返り、声を張り上げた。

「あらまあ!
あたしって、こんな風貌をしていたのね。
想像していたよりも、キャッチーでアバンギャルドだわ!」

全身をじろじろ観察してくる後のエシーラを、前のエシーラもじろじろ観察し返して、声を張り上げた。

「あらまあ!
あたしって、こんな風貌をしていたのね。
想像していたよりも、アバンギャルドでキャッチーだわ!」

自分の全身像を肉眼で直視はできない。
鏡に映したり写真や動画を撮って見ることはできるが、それは虚像にしかすぎない。
虚像というと価値の無いものに聞こえがちだが、自分であって自分ではないそれは、別次元で実用価値があるものが映っている。

前エシーラと後エシーラは、互いに向き合って、

「あたしとあなたって、デフォでアジェンダがドラスティックね!」
「ファジビリティが程よくアクセプトされてるし!」
「これほどまでのイノベーティブなアドバンテージなら、どんなカウンターでも弾き返せるわ!」

意識高く誉め讃えあって、与えあって、叫びあって、飛び跳ねて、

ウィンウィン!
ぶぉーん、ウィンウィン!ぶぉーん!

というエンジン音をたてながら、女子高生ノリで鼻息が荒い。

「ふたりで、ひとり自画自賛同好会かよ・・・」

意識高い系というより自意識が高すぎて逆に志しと性根が低そうに思われがちな用語の会でもあるな・・・

男はシマウマへ、そんな困惑の目配せをして同意を求めたが、シマウマもエシーラたちの祭りに合わせ蹄で地面を叩き、コミット!コミット!という最近では誰もが知ってるけど意味は誰もが知らない不思議な音を鳴らせ、飛び跳ねている。
こっちはこっちで、彼女らのシナジーとウマが合ったシナウマしていた。

「おまいら!
そろそろペンディングしとけや、そのフルコミット祭り!」

前エシーラと後ろエシーラは男がローンチしたそのビジョンを無視したあげく盛り上がりすぎて、ついにはふたりで激しいひとりハグをした。

とたん。

ふたりで抱き合ったひとりの身体から、
まばゆいダークな闇が輝いた。

そのスパークの闇は、底なしの静寂で背景を破裂させた。

ドミノ倒しのように、周囲のフェーズをどんどんゼロベースにしてゆくフィジビリティ。

具体的に説明すれば。
背景セットが全崩壊してゆく向こう側で、大道具さんが慌ててガムテを持って走り回り、カメラさんと音声さんその他撮影スタッフさんたちが飛び退いて、監督がカット!と叫びながら助監督さんの頭をメガホンで叩いたのだ。

メイクさんだけが落ち着いてこの隙に化粧直しをしとこうかしらと近づいた前後のエシーラは、女優魂でもってセリフを続けた。

「おっとっと。
これは・・・意外なイシュー発生・・・」

意識とその対極な存在である自意識。
アジェンダベクトルが真逆なマインドが接触したために。

メンタル物質と反メンタル物質が、
対消滅を起こしてしまったのだ。

タイトなタスクのマターが、
ダークマターへと相転移され。
マンパワーのリソースどうしがネゴシエーションできず、セルフイメージのゲシュタルトがビッグバンセオリーした。

という現象は。
作者の適当なジャストアイディアだ。

冒険小説において場面転換に悩んだ時は、なにかをなんとかして爆発させてやるのがマストなのである。

両エシーラの手首にしがみついてる本も、
出版界ゼロベースの衝撃にもめげない紙本魂で、
「FYI」と記録した。

(おわり)

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