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手のひらの中の美術館

『山内マリコの美術館は一人で行く派展』を初めて手に取った私は、本書の内容をパラパラと流していた。

当たり前だけど、東京って面白そうな展示をたくさんやってるなあ。

最初の印象はこうだった。

アートにとても明るい、というわけではないのだけど、なんとなく観てみたい、という催しがいくつもあった。
しかし、いかんせん遠いのである。
都会から遠く離れた田舎に住む人間にとって「なんとなく観てみたい」というゆるふわな理由だけで、気軽にほいほいと色々な美術展には行けないのだ。
少なくとも私はそうだし、今思うとそういう理由で見送った展覧会が結構あるように思う。

まあ、いいか。
とりあえず、行った気分だけでも味わってみるつもりで読んでみよう。

そんな気持ちで読み始めた。

内容としては、著者である山内マリコさんの美術展に関するエッセイをテーマ毎に分け、展覧会の順路を辿るように読み進めていくというもの。
著者の、媚びたところのない小気味いい文章が心地よい。
画家の作風からその人の性格を勝手に推測し、ばっさり切っていくスタイルも痛快だ。
定期的に登場する山内さんの愛猫・チチモちゃんのアートもほっこりしていて、とっても素敵。

今回、本書を読むにあたって、知らない作家や気になった作品は、手元に置いておいたiPhone12で片っ端からガンガン検索していった。

ニキ・ド・サンファルの作品ってどんな感じなのかな?→【検索】
はしもとみおの木彫りの動物が気になる!→【検索】
若かりし日の川端康成ってダルビッシュ有に似てるのか~。ちょっと見てみよ!→【検索】

スマホが普及した現代において、私のやっていることは、ごく当たり前の作業だ。
しかし、画面に表示されるたくさんのアートを眺めているうちに、ふと思った。

なんだか、自分の手のひらの中に美術館があるみたいだ。

大きな展覧会や珍しい企画展に気軽に参加できるのは、都会に住んでいる人たちの特権だと思っていた。
地方に住んでいると、それがなかなかできないから。
だけど、例えそういう場所に足を運べなくても、アートは思っていたよりずっとずっと身近な存在だった。
アートは、自分の部屋でリラックスしながら鑑賞して、それこそ山内さんのように、あんな感想やこんな感想を、好き勝手に抱いていい。
そして私は、今までに何度も、数え切れないくらい手のひらの中の美術館を歩いていた。

この手のひらサイズの美術館のガイドブックは、そんなささやかなことを、私に気付かせてくれた。

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