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ヒーローは負けない、絶対に。


平日の夜、レイトショーで映画を観た。ある方のnoteを読んでこの映画がどうしても観たくなったのだ。皆大好き『シンエヴァ』でも、アカデミー賞受賞の『ノマドランド』でも、人気シリーズ『るろうに剣心』でもない。


『砕け散るところを見せてあげる』

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公開されて既に1か月以上経つので観に行く人は少ないだろうと思ってはいたが、なんとその日のレイトショーの観客は私と次女の2人だけ、貸し切り状態だった。それはそれで稀有な経験。原作は小説。映画を観終わったら逆に、この映画のこの感じ(世界観)が、原作小説でどう描かれているのかが気になって原作本を買ってしまったくらいに、後を引く映画だった。


学校でいじめに遭っている高校1年生の女子生徒・玻璃(石井杏奈)に救いの手を差し伸べる3年生の清澄(中川大志)。物語前半はこの2人のまだ恋愛とも呼べないような、淡く可愛らしい日々が描かれる。そして後半、玻璃の父親(堤真一)が登場してからは物語は一気にダークな世界へ。怖い。痛い。思わず「ひぇっ!」と声が出てしまう。そういえばこの映画はPG12だったな。


繰り返される“ヒーロー”と“UFO”というワード。
ヒーローは、清澄。玻璃へのいじめを見て見ぬふりが出来ない。悪いやつは成敗してやる的な、熱いヒーローだ。今の時代、こういう類の人は少ない。みな、放っておけ、関わるな、と言う。口をそろえて、あいつはヤバいと言う。しかし清澄の言うヒーロー像とは、

①ヒーローは決して悪の敵を見逃さない
②ヒーローは、自分のためには戦わない
③ヒーローは負けない、絶対に

だから放っておけない。そして玻璃はヤバいやつでも変なやつでもなく、普通の可愛い女の子だった。普通じゃなかったら良かったのに、と清澄は思ってしまう。普通じゃなかったら、諦められたのにと。

そんな清澄に玻璃は、ヒーローは何で出来ているかと問う。「タンパク質?」と清澄は答えるが、玻璃の答は酸素だ。ヒーローは酸素で出来ている。

「私にとって先輩(清澄)は澄んだ空気そのものです。傍にいるだけでいいんです。苦しみも悲しみも吐き出せるんです。死んでた細胞もいきなり元気に再生します。何度でも蘇れるんです。」

それに対して清澄は、

「なら俺たちは永久機関だ。俺を生かすエネルギーはお前の幸せだから。」

なんともくすぐったい。少女漫画ならここで完結だ。しかしこの映画はPG12、このまま終わるわけがない。

玻璃が自分の「頭の上にある」と言うUFO。何か悪いことや悲しいことが起こった時、誰かのせいではなくそれらは全てUFOのせいなんだと、そう父親から言われてきた。自分は悪くない。お父さんも悪くない。悪いのはUFO。玻璃はそうやって苦しみから逃げてきた。でも、自分を守ってくれようとしている清澄の存在、UFOからの攻撃に気づいてくれた清澄との出会いで、玻璃は変わる。UFOと戦ってもいいんだと気付く。玻璃自身もヒーローに変身した。

「今から2人でUFOを撃ち落としに行こう。」

そこからのハードな暴力シーン。普通の高校生がこんな目に遭うと、誰が想像しただろう。清澄自身が一番驚いたに違いない。なんで?なんでこんなことに‥と。

人は守りたい人がいたら強くなれる。人は信じられる相手のために強くなれる。強くなった結果がひどく無惨な結末を呼ぶこともある。だけど、何もしないままでいるより、守りたいもののために行動することは前に進むことだ。前に進めたなら、いつかまた光は見えるのだから。願ったハッピーエンドではなかったけど、愛と幸せを感じた。

観て良かった。何ならもう一度観たいと思った、貸し切り映画館でのあの夜。



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