君に花束を
僕は花屋さんで花を買う。それは、君への花束だ。
花束を買うだなんて恥ずかしくて、今まで僕は君に花束を贈ることなんかなかった。
でもさ、これは君との約束だから。今日僕は、君に花束を贈る。
君へのプレゼントを買うのは、いつもドキドキする。
君の誕生日に僕は宝石店にゆき、ネックレスを選ぶ。
どんなものが君に似合うだろう?
君の喜ぶ顔が見たい。君の笑顔を僕は思い浮かべる。
君の瞳はとても輝いていて、僕にはとてもまぶしい。
「私ね、花束をもらうのが夢なんだ」
君は言う。
僕は何度となく花屋の前まで行き、花束を買おうと思った。だけど駄目だった。
とてつもなく恥ずかしくて、僕は君に花束を買うことなんてできなかった。
花束を買うという事、花束を持って歩くということ、君に花束を渡すこと。それらすべての行為が、僕には照れくさかった。
君はいつも不満そうに僕を見る。
「いつかきっと、花束をくださいね」
僕は花屋の店先に立つ。店員の女性が「いらっしゃいませ」と明るく話し掛けてくる。僕は緊張して下を向く。
「プレゼントですか?」
彼女はなおも明るく僕に話し続ける。
「ええ、どんなものが良いのか、まるでわからないのですが」
僕は下を向いたまま。
「ご予算はどれくらいですか?」
「どれくらいがいいのだろう?」
「大切な女性へのプレゼントですか?」
「ええ」
僕はともかく逃げ出したい気分でいっぱいだった。
だけどこれは彼女との約束だ。僕は店員の薦めるがままに花束を作ってもらう。
僕は花束を持って、公園に向かう。
そこで君は待っている。
僕は公園のベンチに花束を置く。一年前、君はここで殺された。
僕は今、君に花束を贈る。
おわり
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