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「クラファン残り4日となりました」

暗い子どもだった。
姫路から甲府へ引っ越してきて、周りは敵だと自分を閉じた。
だから私には全く記憶がない時期がある。
画用紙を真っ黒なクレヨンで、毎日塗りつぶす日が続いた。

そして、あろうことか叔母に誘拐された。

5歳になっていたから、ある程度の記憶はあるはずだった。
しかも映画のフィルムを巻き戻すように「よくそんなこと覚えているわね」と言われたぐらいだったから、その時の記憶が一切ないなんてあり得ない。

覚えているのは、砂壁を引っ掻くとボロボロと落ちてくること。
解体現場の中で遊んでて、釘を踏んでしまって痛かったこと。
おたふくがあっけないぐらいに早く治ったこと。
いじめられて悔しかったこと。
泣くもんかと唇を噛んで、「いつか見返してやる」と思っていた事。

叔母はまだ若かったんだろう。
田舎から出てきて、そこから逃げ出したくて、
でも、1人では心細くて私を連れて出て行った。
「みっちゃん、一緒についてきて」
その切羽詰まった様子に黙ってついて行ったそうだ。

叔母が黙って消えたこと
私もそこからいなくなっていたこと

深夜になっても帰ってこない2人は、警察沙汰になっていた。
今のように携帯があるわけではないから、2人の行方は誰もわからなかった。親も不安な時間を過ごしたのだろう。

叔母のきれいな肌は青ざめて、夜行列車のガラスに写っていたんだろうか。
頬の髪がやつれたように張り付いて、少しだけ汗が滲んでいたんだろうか。時折、ギュッと「ごめんね」と私を抱きしめた体からはおしろいのいい匂いがした。
私はジィッと握った拳を見つめていたのだろうか。
2人の影が夜の闇に吸い込まれていくのを見つめていたのだろうか。

数日経って、四国で発見された。
誘拐劇は無事終わり、私は灰色の世界に連れ戻された。

私の寂しい心が叔母を呼んだのかもしれない。

私は誘拐されたかったのだ。
誘拐されてでも逃げ出したかったのだ。
甲府には色がなかった。空気がなかった。
周りを囲んだ山々が自分を見下ろすように思えて、空が狭くて、息苦しかった。

ハヤクココカライナクナリタイ

その思いは、海のある街へ進学することで成し遂げられる。
2度と戻ってくるもんか。
そう思って出て行った18の春。

先日、姫路に行ってきた。
おばぁちゃんの葬式以来25年ぶり 
4歳半まで、駆け回っていた場所
小学生の夏休みはずーっと預けられていたから、夏を待つ1年だった。

電車と、新幹線の高架下をくぐりぬけて、みどりのたっぷり茂った山を横目に曲がると、のどかな景色が広がって、一気に空がひらけてくる。

歩くとぽちゃぽちゃカエルが飛び込み
生あったかい田んぼの匂いがする

もう、田んぼはずいぶんなくなって、家もたくさん建っていて、昔見た景色はないけれど、空はぱぁっと広くて、のびやかで、ぐんと心が背伸びする。

田んぼをのぞきこむとタニシやトンボ、おたまじゃくし。カエルがちいさな足を伸ばして、ぴゅんと進む。

毎日が冒険だった私のいた場所
まだ、走っている小さな私がいる

ずいぶんと大きいと思っていた山は、ゆるやかな丘であったことがわかって、なんだか苦笑する。
私は、大人になったのだ。

おーいおーい
こんなに大きくなったよー
私は、私のなりたかった私になれてるかーい

甲府で、私は自分を閉じた。
大嫌いな場所だった。
2度と戻ってくるもんか、と思って家を出た18の頃。
まさか、こんな風に甲府で、みんなが自分でいられる場所をつくることになるなんて考えてもいなかった。

でも、と思う。

大好きな人たちと一緒だったら。

もう一度私は、子どもだった自分を開放して、
みんなと一緒に笑い合って、
あの灰色の世界をカラフルに彩れるのかもしれない。

大嫌いだった街に戻ったら、あんなに息苦しいと思っていた山は、豊かで眩しいぐらいだった。

私は、大人になったのだ。

クラファン、あと4日です。
一緒に遊びましょう。

https://motion-gallery.net/projects/asobima2021






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