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大企業からの離脱(第一波・下編)

大企業からの離脱(第一波・上編)

大企業からの離脱(第一波・中編)

荒波を乗り越えるために必要だったもの

現在、日本企業はGAFAを代表とする米国企業やインダストリー4.0を国として推進する独企業のイノベーションにより、経営戦略的に完全に遅れを取っている。また、アジア企業との価格競争で完敗し、日本のお家芸であった高品質製品を低コストで安定的に供給するメイドインジャパンスタイルがもはや通用しない。さらに悪いことに新工場設立などの過剰投資が原因で、巻き返す体力さえも奪われてしまった。これは完全に経営戦略の失敗である。

日本のサラリーマンの景況感は悪化の一途をたどる。日本経済を牽引するはずの大企業が内部留保によりキャッシュを増やしており、従業員を通して社会に還元していないからだ。先に述べたような、世界をリードする企業に食らいついていくためには、自らのイノベーションを起こす資金が必要だ。停滞した世界経済の限られた需要を取り込み、企業として競争力をつけていかねばならない。

私が経営者でも同じようにするかもしれない。事業を整理して余計なコストはカットし、本業により多くの利益を確保し、本体として存続していかねばならないからだ。そして戦略的に別企業を買収する計画を立てるかもしれない。大企業が持つ社会的責任は大きく、存在そのものが存在意義になっている。雇用を生み出し、日本の資本経済を回すその存在が崩れてはならない。俯瞰から見ればよく理解できる。

だが、事業再編された現場は混乱の極みだった。今まで慣れ親しんだ働き方と生活基準がガラリと変わってしまったからだ。このような状況だからこそ、サラリーマンは自分で自分の身を守り、たくましくサバイバルしていく力が必要だ。

この事件は私に幸運をもたらした。私の場合、この騒動の前後で給与待遇が下がるどころか、月次基本給が1.5倍以上になった。転職してもこれほどの待遇は得られなかっただろう。万人には通用しない個別例であるが、私が実践したポイントを以下に整理した。

1. まずは事実を冷静に受け入れ、現状維持は出来ないことを認識
2. 経営視点で見た事業の未来を考え、自分なりに課題を整理
3. 会社に将来性があるかを判断。ない場合はすぐに転職するつもりだった
4. 理不尽に対する不満は決して表に出さず、前向きであるよう振舞った
5. 目的はあくまで事業の立て直しであり、やり通す覚悟を決めた 

上記の4つ目は大多数が実践できなかったポイントだった。実に9割以上の従業員は上司との面談で不満や不安をぶつけることから始まった。何故そんな自分に不利になることを言ってしまうのかと思ったが、仕方のない状況でもあった。説明会の後すぐに会社側が面談を設定し、率直な意見を述べろと言ったからだ。気持ちの整理がつかないうちに面談を設定されたら、誰だって不満を吐露したくなるだろう。

だが残念ながら、会社に気持ちをぶつけても意味はなかった。それどころか、会社側は転籍後の従業員のやる気とポテンシャルを選別していたはずだ。後向きな気持ちでは新しい会社で足を引っ張られるだけだからだ。

会社側は統合後の現場を前向きに引っ張ってくれる者を切望し、年齢や役職に限らず探していた。新統合会社の社長は私がいた職場までやってきて、会議室にこもって新たな面談を実施し始めた。あからさまな選別作業だった。幸運にも、私は社長との面談者として選ばれたため、今後の経営における課題と自分が果たすべき役割について話した。確かな手ごたえがあった。「君には新会社では重要な役割を与える。頑張ってもらいたい」と言われた時、この会社の年功序列制度はもはや崩れ去ったと思った。

上記に列挙したポイントについて、私は会社が統合する前からずっと考えていた。会社が新しくなり、どんな課題が待っているのだろうか。私が出来ることは何だろうか。現場は気持ちの整理がつかずに混乱するはずだ。出身会社同士の争いもあるだろう。両者の気持ちを理解しつつ、建設的な提案ができる強力なリーダーシップが必要だ。その役割は、大企業出身に何の誇りもない自分が担おうと思っていた。だからこそスラスラと面談でも主張できたのだが、惰性で流されて思考停止していたら何も言えなかったかもしれない。早めにマインドセットを切り替えておいて良かったと思った。

実際、過去の栄光をいち早く手放し、前だけを見て挑戦しようとした人たちは、私と同様に荒波に乗ることに成功した。

私がそれまで信じて疑わなかった専門性や種々のスキルは、危機の際には役に立たなかった。役に立ったのはむしろマインドセットだったのだ。もっと具体的に言えば、自分の持つスキルを整理し、会社での自分の存在意義を見つける冷静な状況判断力と、会社の中に厳然たる事実として転がる課題に、自ら挑戦していく主体性と精神力の強さが、最も求められる能力だった。

私が会社で働き続ける意義

会社に忠誠を誓う必要なんてない。どんな状況でも会社を利用してサラリーマンを楽しむ姿勢が私には重要だ。自分が組織の歯車であると決めつけていたのは、他の誰でもなく自分自身だったのだ。歯車から解放して自由にしてやれるのは自分しかいない。そして、自らが主体的に楽しむために経営について勉強した。

なぜ経営を勉強したかったか、考えはこうだった。

例え有能な経営者が理想を持っていたとしても、現場を動かす小回りさも時間もない。そして現場の専門知識もないだろう。だからこそ現場を自由に動けるリーダーシップと専門性の両方を持った者が必要だ。事業の発展のためには、戦略を考える頭脳と実行する現場力が必要だ。だが、経営戦略を現場に落とし込み、リーダーとして仕切るはずのミドルマネジメントは、自分が経験したことのない事態で思考停止するはずだ。これまでの大企業の忖度や常識は通用しないからだ。

だからこそ、主任クラスの中堅社員が経営視点を持って現場を仕切る必要が出てくる。どんな会社になろうと需要は絶対にあると思った。そしてその結果、自分の裁量は拡がり、主体的に仕事を楽しめるようになるだろう。その姿勢は個人の成長に繋がることは当然ながら、結果的に職場の雰囲気を良い方向へと導き、企業としてもレベルアップしてくはずだ。

上意下達のピラミッド組織は我々の手で終わらせ、我々が時代を変えるのだ。それが日本で働く我々の世代の役割だと思った。

そして、サラリーマンとしてプロフェッショナルに徹し、ガヤに左右されずに自分が信じる思考に基づいて行動することだけは絶対に忘れない。ただ、この思考は固すぎても柔らかすぎてもダメだ。固い鉄の軸を持ち、その周辺をスポンジで包むイメージだ。

私の鉄の軸とは、「従業員が一体となり自ら楽しんで事業の未来を創っていく。そして気持ちを外に向け、お客様の未来を創っていく」こと。スポンジは、これを実現するための様々な動機付けや考え方であり、関わる人や自己成長により変化し得る。

そしてこのスポンジが、周囲の仲間と自分自身の成長により、様々な思考や知識、経験を吸収して大きくなり、私の人生はみずみずしく豊かになっていくのだ。

(第二波・会社統合の混乱に続く)

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