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三田紀房は『ドラゴン桜2』の次になぜ医学部生の日常を丁寧に描いたマンガ『Dr.Eggs ドクターエッグス』を描いたのか

 「グランドジャンプ」(集英社)で連載中のマンガ『Dr.Eggs ドクターエッグス』の1巻が、2022年2月18日に発売されました。
頭がいいという理由で、なんとなく地方の国立大学医学部に入学した少年が主人公の本作。医学部生のリアルな生活と、悩みながら医者への道を進む主人公の姿を描く構想はどのようにして生まれたのか。

 株式会社コルクの代表取締役で、“東大合格請負漫画”『ドラゴン桜』の編集者だった佐渡島が、『Dr.Eggs ドクターエッグス 』の連載が始まったきっかけや作品の魅力をインタビューしました。


◆Dr.Eggsの構想が生まれたキッカケは友人の
「地方の国立大学医学部には、成績が良いだけで受験しにくる学生もいるんだよ」の一言だった

佐渡島:
 主人公が医師であったり、医局が舞台の医療マンガは多くありますが、医学部学生が主人公の物語は、あまり例がありませんでした。『Dr.Eggs ドクターエッグス』の構想はどのようにして生まれたのでしょうか。

三田:
 もともとは、医療マンガの読み切りを描いてほしいと依頼をもらったことがきっかけでした。ただ、医療マンガはすでに出尽くした感もあり、しばらくネタが浮かばなかったんですよ。

 どうしようかなと考えている時に、ふと、医学部の教授をしている友人が、「地方の国立大学医学部には、成績が良いだけで受験しにくる学生もいるんだよ」と話していたのを思い出しました。
医学部といえば、医師を目指す学生が集まる場所だと思っている人も多いはずです。
その意外性がおもしろかったので、成績が良いから医学部受験を進められて、そのまま進学した主人公を描いてみることにしました。

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主人公は首都圏の進学校出身の円千森(まどか・ちもり)。
三田作品では珍しい"素直でいい子な"ふつうの18歳である。

佐渡島:
 読み切りで用意していた物語を、どうやって連載に練り直していったのですか?

三田:
 読み切りは、1話描けば終わりですからね。先の展開までは考えていなかったので、改めて友人の教授に会いに行きました。
医学部の1年目、2年目で学ぶ過程や、学生の日常生活を細かく聞きながら、何をどうやって面白く伝えるかを考えました。


◆高校を卒業して1年ぐらいの子に、メスを持って解剖をさせているなんて思ってもいなかった

佐渡島:
 話を聞きながら、「これはいけるぞ」と手応えを感じた瞬間はあったのですか?

三田:
 まず、医学部生や医師を除くと、医学部の6年間で何をどんなふうに学んでいるのか、ほとんどの人は知りません。
僕も知らなかったので、1年生では骨から学ぶと知り、とても驚きました。骨についてどんなふうに勉強をするのかと聞いたら、「まずは骨を並べるんだよ」と言われる。「へぇ、並べるのかぁ」と、ひとつひとつが驚きで、おもしろかったのです。

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円たちは1年次に、
「骨学」という授業で標本の組み立てとスケッチに挑戦する。

『Dr.Eggs ドクターエッグス』1巻・第5話

三田:
さらに、2年生で解剖学を学んでいることも驚きでした。現役で入学した子だったら、19歳で解剖を経験するんですよ。僕が19歳のときは浪人生でしたからね。
高校を卒業して1年ぐらいの子に、メスを持って解剖をさせているなんて思ってもいなかった。
解剖学については2巻で詳しく描いていますが、医学の技術は、手先が柔らかい若い時に身に付けた方がいいから、早いうちにメスを持たせるのだそうです。日本の医学教育は世界的に見てもかなり珍しいのですが、そうした考え方や情報も、丁寧に伝えていきたいと思っています。

佐渡島:
ドラゴン桜を一緒に作った時にも、東大を受験する学生にとっては当たり前だった情報が、とてもおもしろく伝わる作品になりました。三田さんは、何気ない情報の中から、「ここは読者に伝えるとおもしろい」を探しているんですね。

三田:
 そうですね。きっと、医学部の教授にすれば当たり前の話をしていただけだと思うんですよ。
 だけど、ある世界の⼈たちにとっては当たり前で平凡なことでも、外の世界に持ってくると、驚きと発⾒ばかりです。みんなが知らないことや驚きを伝えるメッセンジャーの役割が、僕にはあるんですよ。


◆医学部生の日常に寄り添い、描く理由

佐渡島:
『Dr.Eggs ドクターエッグス』は、桜木のような強烈な個性を持った大人が主人公で、「医学部版ドラゴン桜」になるのかなと想像していました。
実際は「スクールライフ群像劇」とコピーが入るくらい、医学部生の日常を丁寧に描く作品になっています。どうして、強烈な個性を持った主人公ではなく、少し気の弱い10代の学生を主人公にしたのですか?

三田:
 この作品が世の中で認知され、マンガ界の中で一つのポジションを作っていくためには、圧倒的な協力が必要です。
舞台となっている国立大学の医学部生や教授の協力があるから、連載も始められました。「解剖がおもしろい」と思ったら、解剖について徹底的に教えてもらえて、情報のサポートをしてもらえる体制がなければ成り立たない作品です。
そして、しっかりと学生の目線に立った作品でなければ、このマンガは上手くいかないだろうと思いました。

 だから、桜木のような個性の強いキャラクターが物語を引っ張るのではなく、学生の日常を忠実に伝える主人公が必要だったのです。

 僕の気持ちも、学生の日常に寄り添うことにコミットしています。

 例えば、主人公がサークルに入るシーンがあります。
医学部に入ったら勉強の毎日だと思っていたけれど、学生も教授も「まずはサークルに入ることが大事」と言うんですね。絶対にひとりぼっちにならないように、何かしら小さなグループに所属することを勧めます。そうしないと、医者にはなれないとはっきり言うんですよ。
そうした日常を忠実に描くことを大事にしています。

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「サークルに入らないとダメ?」という円に、先輩がアドバイスをする。
その先輩のアドバイスも、非常に医学部ならではの内容となっている。

『Dr.Eggs ドクターエッグス』1巻・第3話

佐渡島:
 学生たちの日常の情報と、主人公の人間的な成長が同時に描かれていて、とても魅力的な作品になっていると感じます。

三田:
 首都圏に住む18歳の主人公が、地方で一人暮らしを始めるところから物語はスタートします。
成績が良いという理由だけで医学部に進学した主人公は、なんとも頼りなく見えます。ちょっとぼんやりしたところもある子が、どうやってお医者さんになっていくのか。

 彼の生活基盤である医学部の日常をしっかり描きながら、彼の目を通して、医学や医学部についても世の中に伝えていけたらと思っています。

佐渡島:
 主人公がどんなふうに成長していくのか、非常に楽しみです。今日はありがとうございました!

<完>

Dr.Eggs ドクターエッグス 1巻はこちら🔻


インタビューは動画でもご覧いただけます!


執筆:栗原京子

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