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子どもは欲しくないし、旧友とは駄弁りたい。

ディズニーランドで結婚式をすることと、子どもを産むこと。
このふたつさえできりゃ相手なんて本当は誰でもいいのかもしれない。
生物として死ぬまでにやるべきことは子どもを産むことなんだと思ってる。

と。

優しくてイケメンな彼氏とうまくやっていた友達のひとこと。
絵に描いたように可憐な容姿とその淡々とした話し方が対照的で実におもしろい。
彼女のそんなところが私は好きだ。

モテにモテていた彼女だったけれど、運動部のマネージャーやる女は全員ビッなんとかとか言っていて私たちはほんとうに気が合った。

イルミネーションにはウキウキするし、少女漫画も何十冊と集めている彼女。
だいたいの趣味嗜好や人生観は見事に合わないのになぜか妙な価値観だけ合致する。
正反対のタイプでも仲良くなれるパターンって自分にもあるんだ。

なんでもかんでもツイートし過ぎずにミステリアスでいたいよね。
結婚したあとLINEの苗字わざわざ変えるやつってなんかさぁ。
私事ですがってなんだよSNSなんて全部私事じゃねーかお高くとまってんじゃねーよ。とか。

柔らかくてキラキラしている見た目に反したブラックな顔の彼女と話すのがとても好きだった。

お互い社会人になり初めこそ文通していたけれど、特にきっかけもなくいつしかぷつんと切れてしまった。

他の人にはあんまり理解されなさそうな、そうでなくてもなんとなく話しにくいような斜め上から刺しこんでいくような話を大人になってもしたかったんだ。

人間ある意味いつだってお年頃じゃない、ステージごとのモヤモヤを聞いてほしいんだ。




「あのさぁ、わたし子どもって欲しくないんだよね。

人生の時間とか生活の気力を自分以外に費やさなければいけないのが嫌なの。
私は常に快適な状態でないとムリでさ。
荷物が重いとか、髪の毛が顔にかかるとか、汗ばんで心地が悪いとか、そういうのを出来る限りなくして快適に息をしていたいの。

そう思うと子どもを持つことって、こんな私にとっては毎日を負担に感じてしまうんじゃないかなって。
いや、それが子育てだってことは分かってるよ?」


こんなことを学内の涼しい散歩道で深夜にでもだらだらとしゃべりたい。
意見が合わないなら合わないでその違いを楽しんでくれていた彼女でも、
あの頃みたいに笑ってはくれないんだろう。
だって彼女はもう結婚も出産もしている。



「ていうか、単にリスクじゃない?
もしも病気を抱えてしまったりしたら子どももこちら側もいっきに人生ハードモードに切り替わるんだよ。
そこをポジティブにひっくり返せるような人間力わたしには備わってないよ。
そうでなくても世の中トチ狂ってるんだから不幸な目に遭わせる可能性に既にビビりまくってるもん。

それに、世の中には救われるべき存在が既に山ほどあるのに。
全部丸ごとスルーして自分本位で愛着をつくりだして金も時間もそちらにかけるなんてほんとディストピアな世界だよね。
これディストピアの使い方合ってるよね?

子育ての大変さより子どもの成長の喜びの方が勝つってみんないうけどさ、まぁ自分も実際に子どもを持ったらそう思えるとは思うんだけどさ、

でもでも、自分はそう思えなかったらどうしよう?とも思っちゃうの。」



目標通り、彼女は子どもを持ったんだ。
だから、”子育ての大変さより子どもの成長の喜びの方がが勝つ”を既にもう味わってる側だ。
すぐ隣で日付が変わるまで語り合っていた彼女も今は向こう岸にいるようなものだ。




「人間なんて既に生物らしくないからな!
生物として常軌を逸してしかないからな。
服なんか着てるし道具使って食べるし。
自分から進んで命を落としたりするし。

避妊も中絶も全く生物然としていなさすぎるし。
わざわざ他の動物つくってわざわざ殺すし。
あと延命治療?そういうときだけ生命倫理捻じ曲げてさ。

そのくせ子どものこととなると、子孫を残さないなんて生き物として〜とか語り出すなんて都合良すぎだしお花畑なんだよ。

ペット飼ってる人の割合くらいで子どもを持つのが少数派だったらわたし絶対子どもなんか産まないだろうし、こうして悩むこともないんだろうなぁ。

正直、相手が不妊だったらいいのにと思う。
はは、ヒドいよね私。
自分のせいじゃなくなるでしょ、あぁ仕方なかったねって言えるじゃん。
もう大人だしいちいち自己嫌悪に陥ったりしないけどさ、なんか、ね。

あと子どもいないことで相手からの評価が下がったりするのめっちゃ嫌だなぁって。
でも、それで他の人に気が向いちゃったりしても文句言えないやぁ。」


私は彼女の見解を知ってる。
”生物として子どもは産むべきなんだ”
だからわかるーとかうけるーなんてもう言い合えない。




「子どもがほしい理由があるとすればね、やっぱり彼からの評価だったり、子どものお世話をする彼を見てみたいってことくらいかな。

もう、ダメだよね。
恋愛はお互いを見ること、結婚は同じ方向を向くことっていうじゃん。
結婚とか子育てとか向いてなさすぎるよね。

恋愛経験少なかったせいなのか、自己愛が強すぎるのか。
どっちにしてもこんな自分嫌だな。
いつまでお姫様でおりたいねん。

でも、結婚するのがメジャーな社会じゃなかったらこんな風に思わなくても済んだのにって思うとなんかはぁーーって感じ。

もし子ども持つ!ってなったらね、
10ヶ月間は頑張るし生死の境目で頑張って出産はするから、
そのあとの一切を丸投げしたい。

あとね、子どもを持つんなら相手には仕事やめてほしい。
自分はメインで育てる自信ない、私はこれまで通り稼ぐので!って感じ。」


追われたいタイプだとかノー天気に駄弁っていたあの頃みたいにはもう戻れないんだ。
そんなだめんずとは別れるべきだ、でもあんたが幸せならそれでいいけど、なんて言ってくれてたな。


「厭世主義だか悲観主義なのか、自分がいろんな犠牲を生み出してでも生き続けてるって事実にすら虚しくて仕方ないのに、これ以上こんな野蛮なシステムを回し続けることに罪悪感とか矛盾とか虚無しか感じないんだよね。

こんなにかわいい犬や猫が殺されなきゃいけない社会なんて繁栄していいはずがない。何がSDGsだよ、こんな残酷な世界が持続可能でいいわけなくない??
ってなんか思想強めになっちゃったね。

だって、もうこれ以上新たに必要なものなんてないんだよ。
今生きてるものはみんな幸せになればいいんだけど、これ以上不幸を敢えて生み出すようなことするのって知性が本能に負けてない??」


そういや、ペット産業は消えた方が良いって言ってたな。
動物嫌いだからそう言ってるんだと思っていたけど、
彼女は頭がキレるからな、それだけじゃなかったんだと今になって思う。





それはそうと、動物好きは男子ウケが良いみたいな風潮も消えろなんて言ってたなぁ。

彼氏がいたとしてクリスマスに一緒にいる相手が自動的にそれになるのってなんか違うんだよねとか、
僕からの俺よりも、俺からの僕の方がなんか萌えるよねとか、
自分なんかに振り向いてくれないからこそかっこいいんだよねとか、

わかるわかるって、今思えばこの子とは恋バナばかりしていた。
哲学的女子会、なんて命名してたな。
好みのタイプも正反対なもんだからそれはそれで話が盛り上がる。

文通が途絶えたあと、他の友達のようにラインでのすればいいものの、
よほどのことでないのなら私たちはそれをしなかった。
私たちらしいと思う。

そのあともたびたび彼女のことを思い出す、具体的にはだいたい月1か2ヶ月に1回くらいに、ふと。

宣言通り彼女はディズニーランドでの挙式も果たした。
きっとお相手にせがんだりはせず、築き上げてきたキャリアを以てコツコツと貯めたお金で目標を達成したんだろう。

ディズニーにあまり関心がない私を知っている彼女が、あんたが唯一好きだって言ってたチップとデールも来てくれるから、きっと楽しんでもらえると思うんだよね!と招待状をくれたことも嬉しく思った。
彼女らしくオンラインでの招待状で。

久しぶりの連絡では、産まれた時はとりあえず目がぱっちり二重なの確認できてめっちゃ嬉しかったんだよね〜と教えてくれた。

好きな友達がずっと変わらないでいてくれるのはどうしてこうもニマニマとしてしまうほど嬉しいものなのだろう。

世間に子どもの話題なんかを振られるとなんだか口角がうまく上がっているが途端に自信がなくなる。

学内のベンチで何時間も過ごしたときみたいに今は彼女に自分の腹を見せられる自信が今はない。

私と対照的で勉強ができて進路とかも綿密に考えているところ、意外とアニメやゲームオタクなところ、数学が得意なところ、動物が苦手なところ。

こんなに違うのにあんなに笑い合った。

「私には全然理解できないけど、あんたが幸せなら私はそれでいいと思う」

呆れながら笑ってそう言う彼女の顔を思い浮かべてみる。


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