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(2)2020年 私のこと

小説「大村前奏曲(プレリュード)」序章 Vol.2

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 私の名は来見十三六(らいみとざむ)。初対面で名前をまともに呼ばれたことはない。
 現在は国土交通省の官僚として長崎県庁に勤めている。とはいっても観光関係の部署にデスクがあるだけで直属の上司も部下もいない。未だに仕事の内容も目的も完全には理解していない。
 二年前に赴任して当初は長崎市内に住んだが仕事の大半は大村市内だし直行直帰が多いことから大村駅に自転車で五分ちょいの諏訪という町に部屋を借りた。ここなら今は諏訪駅は各停しか止まらないがいずれ新幹線の駅も出来る。高速ICも近いから車で出かけるのも便利。おまけに空港も近い。イオンも自転車で行けるし近隣のスーパーやコンビニの充実度も高い。実はそのことが私の「本当の仕事」に関係あると判ってきてはいたのだがその件はまた別の機会に。
 恋人の名はは尾呂生文(おろうふみ)。行きつけのカウンターバーで出会った4歳半年下。美人でも特にインテリでもないが瞬時の情報分析判断には優れている。直観力や判断力というより逆に「感」と言った方がいいかも知れない。大学で「ネットワーク理論」を専攻した私だが未だに彼女の脳細胞のアルゴリズムは理解できないでいる。一方で恋人というより日本のことを語り合う議論仲間という感じもある。どっちにしても遠距離になった今、より大事な存在なのは間違いない。
 そうそう、私自身のことだった。
「ネットワーク理論」と言っても工学部で学ぶようなエンジニアリングやプログラミングではない。純粋な物理学的理論である。一言で言えば通信やコンピュータだけではなく生物や人間関係などソーシャルな物と物との関連性を解き明かす学問である。文系でいえば哲学や社会学で扱うような分野を数学的に突き詰めるといったところだろう。そういう意味では即戦力的にすぐに何かに役立つというものでものではなく人の動き、物の動き、社会の動きを構築したり分析する重要な手段の一つということなのだ。
 ということで大手のPC・通信関連の企業やらIT関連やら就活してみたが良く進んで二次面接あたりではじかれた。結局大学院に二年進んだあと上級国家公務員を受けることにした。どの省庁を受けるかは迷ったが合格する気もしなかったし、どうせならの気まぐれで防衛省にした。
 キャリアならデスクワークだろうし若いうちは現場の自衛隊に配属されるかも知れないが十年やそこらはこの国が大きな戦争に巻き込まれることもなかろうとたかをくくっていた。試験に落ちれば大学に残って研究を続けるしかない、そんな単純な動機だったのだが運良くか悪くか採用されてしまったのだ。


(続く)





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