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よぎる

秋の深まりを肌で知る
風のむこうにはもう
キンモクセイはいないようだ
すぐにわかる


遠く鐘を鳴らして
しらさぎは飛び立つ
その瞬間のよぎりは
あまりにも浅薄な我が来し方
鐘の響き
心のうそぶ


誰にも語らずにただ
ここにいること
その思いは見えず
しらさぎのみ知るか


飛び立つ航路に朝日さす
朝焼けの手前にようやっと
今日の光が
つつみこむように


傷を背負う我が足を
撫でていくのか
どれだけ歩いても
戻ってはこない


それが航路なら
それは人生
活躍した我が手よ
もうそこには何も無いのだ


明日をみつめる前に
今日を受けてたつ
そこにこそ我が顔の
傷痕の輝き


明日へと
飛び立つしらさぎの
航路にむかいて
一つだけ挙手をした


白手袋の
穴が輝く
衰えた手のひらのすじ
掴むものは何も無しに


これから何処へ
白い鷺に見とれる

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