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爆走!韓国旅行 その1

 何十年も前、28歳の4月頃のことです。その当時頻繁にご飯に行っていた友人から「一緒に韓国に行ってほしい」という電話がありました。メンバーは友人とその母と私。理由は「ママと私だけだと喧嘩になるから、誰かに一緒に行ってもらおうってことになって、それで、ママがKちゃんをご指名なの」ということでした。

 Hちゃんは学生時代の同級生で同じゼミで苦しんだ仲間。在学中は特別仲がいいというわけではなかった気がするが、なぜか社会人になってから距離が近づきました。あ、「なぜか」は今思い出したぞ。先生を囲む同窓会や金婚式のお祝いなどの幹事を一緒にやって、それで話をする機会が増えたからだった、と思う。彼女が音頭を取り、私が予約をして一緒に集まりの内容を練る、そんな感じのことをよくやっていました。仕事もしながらだったので本当に忙しかったけれど、家事という永遠のミッションはまだ引き受けていなかったのでどうにかなりました。

 当時、姉がイギリスで仕事をしていて休みを取ってはしょっちゅう行って泊めてもらっておりました。そんな話をしていたので「よく飛行機に乗る人、海外に行く人」と思われたらしくご指名を受けたらしいです。行ってたのイギリスかフランスだけだが。
 私は卒業後も実家住まい、Hちゃんは「ママが最近うるさくてストレス」と言って早々に一人暮らしをしていました。「ママがボケないようにKちゃん、ファックスをしてよ」と謎の依頼を受け、試みに一度送ってみたところ面白い短歌のような返事がきました。ほう…と思い、また適当に今日はこんなものを食べました、みたいに書いて送ったら、これまたふざけた返事がきたので私とママはメル友ならぬファックス友となっていました。内容はなくとも大きな文字でなにか書いたものが届くと、社会とのつながりを感じていたらしいです。今風にいうとSNSの一種。
 パソコンを詳しい人から安く譲ってもらったり、夜にダイヤルアップ回線でメールを送ったりする、ようやくインターネットが家庭に普及し始めた…頃。まだメールがない同窓生もいたので会の案内は郵便で送っていてエクセルで住所録を作ってだーって宛名シールに印刷する時代でした。

 「飛行機もホテルも食事もとにかく全部うちで出すからサ、とりあえずママに電話してくれる?自分で手配しなきゃなんないんだけど私たち出来ないからサ」いやできないわけないでしょと思いつつ、人のお金で旅行ができるとなるとうんイイヨーなんていってママに電話してしまいました。
 用件はママが韓国のとある団体に長年寄付をしていて、それははるか昔に亡くなったHちゃんパパがやっていたことをママが引き継いでやっているのだけど、その寄付でこのたび立派な建物が出来上がったので、その記念式典に呼ばれた、ということのようでした。ようでした、というのはこの親子の話がいまいちよく分からないからです。ということならば相手がご招待してくれるのでは?お手配くらいはしてくれるのでは?という考えも頭をよぎりましたが、なにしろ日本から行くのがHちゃん親子だけだというのでなんか事情があるんでしょう。

 ママはまあーありがとう助かるわーと軽く言ったあと「ホテルはね、事務長さんと同じところにしてくれって言われててソウルのインターコンチネンタルじゃないとダメなの」から始まり、フライトまで指定してきました。式典に間に合うように、ということでこれまた事務長なる人が指定してきたそうです。指定したなら予約してあげてほしい。と思いつつ、人のお金で…という考えがよぎって、「はいはい」とメモする私。
 親子のパスポート番号と有効期限を電話で聞き取ります。「で、どうやるの?」とママが言うので「JTBに頼む」と答えると「あっじゃあねえ、クレジットカードの番号言うからねえ」と言われ慌ててメモしました。過大なる信用を私に与えすぎる人です。

 ふと、なにか面白いことを言わねばなどと思ってしまい「ママ、私ビジネスクラス乗ってみたい」とほざいてみました。すると「もちろんよ!」とのお答え。そうだ、この人は自分で事業をしていてお金持ちなのだった。いやそれならなおさら、会社やってるなら、秘書かなんかに頼んでみてはどうだろうと思いながらも、人のお金で…という考えがよぎって「わあありがとう!」などと言ってしまう始末。

 すぐにJTBに電話しました。ホテル、二部屋お取りできます。これは親子が喧嘩するのと、ママが部屋にいるときくらい自由にしたいというのでママ一部屋、Hちゃんと私で一部屋、という部屋割りだったからです。デラックスツインというのを二部屋。出発が6月でしたが、航空券も取れました。ビジネス3席。ビジネスなんて買ったことがないので、他に何を聞かれるのだろうと身構えていましたがすんなり「お手配できました」という答え。
 航空券どうされますか?お送りしますか?ええと3か所に分かれます…という要望にも「承ります」のお答え。3か所の住所を伝え、お支払いとなりました。お支払いどうされますか?クレジットカードで…と番号と有効期限をドキドキしながら伝えると「承知しました」との返事。
 本人以外のクレジットカードのご利用は…という文言がカードに書いてあったような気がするのだが、これで買えてしまうのかという衝撃を受けつつ、手配はすんなり完了しました。

 これ夢かもしんないな。そんな風に思っていたら1週間後くらいに航空券と予約票が届きました。えー夢ではなかったのかー。航空券の席には(C)表記、まごうことなきビジネスクラス。ほえー。今ならきっと記念にスマホで撮影していたでありましょう。

 そういえば、とふと気づく。ママとは電話やファックスでたくさん話はしたけれど会ったことはなかったような。卒業式も確か来ていなかったような。初対面の人とビジネスクラスで行く韓国旅行。そして私はどういう立場で行くんだろうか。まあいい、往復ビジネスクラスに乗れる、出発日わくわくしながら成田エクスプレスに乗ったのでした。

つづく

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